18:30D




「いやーでもそれだけ長く続いてるってことは、全然不満とかなさそうだよな〜お互い」

「え、雅さんに不満?あるよー、あるある!!」




あー、俺って結構かわいそうなポジションにいない?って白河に振ろうとしたら、ちょっと聞き捨てならない会話が聞えてきてしまったので、反射的に横を向いた。


どうかした、と聞いてくる白河に視線で横を指す。




「え、意外。鳴ちゃん『雅さんのことなら何でもだいすき!!』とかって言うと思ったのに」何が「意外」か、このメガネ。



こーいう展開に持ってくつもりの「不満なんてなさそうだよね」のフリだろうに。


で、鳴ちゃんの不満を基本的に相槌オンリーで聞く(否定はしちゃダメ)→真顔でじっと見つめる→「…でね…って、どうしたの一也」→「ん…いや〜…俺ならそんなこと、しねえのに、って思ってさ」(逆に「俺だったら、それ絶対やってあげるのに」でも可)



このパターンと見た。狙いが同じなら俺もそうするね。俺とか御幸みたいに、もともとちょっと軽そうに見える男がやると、効果抜群。





…じゃなくて。それじゃ困るって話なんだよ。




職業柄会話の展開と狙いが読めてしまうのは白河も同じみたいで、まるで食卓いっぱいに大ッキライなものしか並んでなくて、しかもそれを食べないともっと恐ろしい罰ゲームが待ってる、みたいな顔してる。……しかしお前、仮にも客席でその顔は怒られるんじゃね?



「ねえ、今日お金どっちが払うの?割り勘?」

「ん?ああ、ここのは一也が払うとか言ってた」

「じゃあいいや、ドンペリ入れてやる。ゴールドで」

「…たぶん、会計のとき更に腹立つだけだからやめといた方がいいぜ…」



カードだろうが現金だろうが、どうせきっとさらっと払うに決まってる。…あの、ムダに整った顔で。



白河をなだめてるうちに、会話はどうやら御幸のペースになっている。げ、まずい…



「だってさあ、聞いてよ一也!雅さんてばね、ひどいんだよ!」

「うんうん、どしたの?」

「こないだね、俺ね、めずらしく料理作ったんだ、家で」

「ああ、今一緒に住んでるんだもんな、それで?」

「もともとさあ、俺料理苦手じゃん?そんでカルロとか翼くんに教えてもらってすっごい特訓したのね」

「へえ、えらいじゃん」

「でしょー!なのにね、最初出したとき、雅さんなかなか手つけてくれなくてさ」





補足するけど、鳴の料理の腕前は「苦手」というよりむしろ「壊滅的」といった方が正しい。いや、正しかった。



だから、そのときの料理を食べたことがあれば、雅さんが二度目に箸をつけるのを戸惑う気持ちも、よくわかる(俺もたまに似たような目に遭う…おかげで胃腸はすごく丈夫だ)


まあ、鳴の場合やれば出来るタイプだから、スパルタで仕込
んだらかなり上達したのだけど。




「食べてくれなかったの?」

「ううん、そーじゃないの、一也、この後がひどいんだって!雅さん、結局食べてくれたんだけど、そのあとどーしたと思う?泣いちゃったんだよ!」

「……なんで…?」


「『お前がこんなに料理上手くなれると思わなかった』だって!!ひどくない!?俺がんばったんだから、こんくらい出来てトーゼンじゃん!」

「…なるほど」



「あとね、こないだ街歩いてたらさ、雅さんがじーって女の子のこと見てるんだよ、しかも、すれ違い様にしょっちゅう」

「鳴ちゃんが居るのに?俺だったら一瞬だって目ぇ離さないけどね」

「でねでね、ムカついたからその後入ったカフェで追及したんだよ、なんだよ雅さん、やっぱおっぱいあって、ふとももふかふかの女の子の方が俺よりいいんでしょ、ハッキリそー言えばいいだろバカー!って」

「で、はっきりそう言ったの?最悪だね」

「ちーがうよ!なんかさ、もごもご言っててなかなか答えてくんないわけ。もーこれ、後ろめたいことある証拠じゃんってホンキで腹たって、店出ようとしたらさ」

「したら?」「『…いや、どう考えてもあの服はお前は着た方が似合うっていうか…お前が着たら可愛いって思ったんだよ…』だって」


女の子の洋服が似合うなんて口に出していえるかバカ、ってことらしいよ。普段俺ドレス着て仕事してんのにさ。何今更恥ずかしがってんだよ。


「ははあ、なるほど、いっつも鳴ちゃんのことそんな危ない目で見てるなんて分かったら、ちょっとやだよねえ」

「やだって、何が?」

「え、それが不満なんじゃないの?」

「ちっげーよ!そーゆうことは、はっきりズバっと言ってくんなきゃ、わかんないじゃん!俺は雅さんの、へんな所でハッキリ言ってくれないとこがイヤなの!」

あーあ、俺は雅さんにもっともっと可愛いって思ってもらいたいのに。だから、雅さんは俺にどーして欲しいか、もっともっと言って欲しいのに。





俺たちが通されたのは4人がけのテーブル。ソファに4人が横並びになる。


俺と御幸が隣り合わせで、それぞれの右側と左側に、白河と鳴が座っている。御幸は鳴の方を向いているから、俺とはほとんど背中合わせだ。




だから、俺から御幸の顔はよく見えないんだけど。


「…白河……気持ちは分かるけど、顔、上げた方がいいぜ」



テーブルにつっぷした白河の肩が小刻みに震えている。

…当然、笑いを堪えるのに必死なんであって、泣いてるわけじゃない。かくいう俺も、口元を押さえてないと今にも吹き出しそうなんですけどね。



一瞬、何事かって吉沢先輩がテーブルの方に来ようとしたけど、手振りで制した。…あとは俺の態度でなんとなく分かってくれたらしい。先輩が何か言ったのか、ずっと心配そうに客席を見てた翼くんと雅さんも、なんとなく落ち着いたように見える。



樹ちゃんだけは、鳴が御幸に対して一生懸命喋ってる様子が気に入らないのか、相変わらず仏頂面だ(やっぱ、あんまりわからないけど)




「…お前、俺の本名呼んだから罰ゲームね、テキーラ一気」

顔は上げずに震えたまんまの声で、白河が言った。


「なにそのゲーム…ナイスすぎるんだけど…マジ今そーいうノリでバカ騒ぎしてえ」


「他の人ならショットグラスだけど、お前もはや人外だからボトル一気しろよ」

「…できるかも。…ノド焼けそうだけどな」



横では相変わらず鳴が「雅さんの不満について」という名のノロケをまくし立てている。




…そうだった、稲実が誇るこの熟年夫婦は誰かが付け入るスキなんか、微塵もありゃしないのだった。


「わざわざ心配すること、なかったな」

「うん、別に御幸一也出禁にしなくてもいいんじゃないですか、って吉沢先輩にミーティングん時言っとくわ…」






後日、ミーティングの時に本来「Red Ace」のスタッフじゃない俺は強制召還されて、この日の出来事について、詳しく喋らされた(白河と一緒に)。



ナントカ報告とか銘うってたけど(忘れた)、単純に気になってただけだろう。


その時ようやく俺も白河も爆笑できて、すっきりしたったらなかった(当日はどっちも仕事だったから、帰ってから話してるヒマもなく寝てた)




翼くんも吉沢先輩もやっぱり大爆笑してたけど、雅さんは頭を抱えて何にも言わなかった。言ってたのかもしれないけど、うなってるようにしか聞こえなかった。

そして、大真面目に不満を述べていたつもりの鳴のボウヤは、なんでみんな笑ってんの!俺ちょう真剣だったんだけど!?って憤慨していた。



もう一人、忠犬樹ちゃんも、やっぱ全然面白くなさそうな顔して、一応入り口には引き抜きスカウト同業者お断り、って書いてあるんだし徹底するべきじゃないですかね、って言っていた(ここには暗に俺も含まれる…)




とりあえず憤慨しているボウヤをなんとかなだめて、一番気になってたことを聞いてみた。



「なあボウヤ、お前一也にさ『そんなに不満があんなら、俺にしとかない?』とか、言われなかったの?」

「ん、言われたよ」

「言われたのかよ!…で、何て言ったの」

「え、”俺、一也の顔は好きなんだけど、そーいう意味で好みのタイプじゃないんだよね”って言った」

「…あ、そう…」



散々心配しといてなんだけど、一応お客で来てた御幸もこの通りばっさり。いいんだろうか。…まあ鳴ちゃんだからいいのか…




しかし、結局全然懲りてない御幸と一緒に、俺はまだちょくちょく「Red Ace」に足を運ぶことになるのだった。

ま、それはまた別の話。



−−−−−−−−−

長々とおそまつさまでした!

空さんからのリクエストで「鳴ちゃんと白河が働いてるところに、ホストの御幸とカルロスが遊びに来る」ってシチュエーションでございました。

最初は鳴ちゃんと一也は元恋人で、もっと痴情のもつれ(…)、みたいな話になるかと思ってましたが、リクエストのメール文に「一也は猛アタックするんだけど、鳴ちゃんは『俺好みじゃないんだよね』っていう感じ」って一文があったので、御幸がこんな可哀想なことに(笑)

うちでは割と不憫です、一也…色々と。御幸ファンに怒られそうな一也の扱いなんだけど、ここ稲実しか見えない人がやってるので許してください。


こんなダラダラしたものでよかったら、どうぞお納めください、遅くなってしまってすいません!

リクありがとうございました★



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