18:30B
「へぇ〜、ありさちゃんてあのあたり住んでんの?あの辺に、いいバーがあんだよねぇ…今度一緒行く?あ、お酒ダメだっけ?」
「ううん、超好き!てゆーか、カルロス君に誘われたら酒嫌いでもヨユーで行くし!」
「さやかちゃん肌荒れすぎ〜…ちゃんと寝てる?どーせ夜遊びばっかしてんでしょ」
「みゆき君こそ、男の人とは思えないくらい肌キレーなんだけど!マジなんなの!?」
「…どっちが客だかわかんねえな…」「ですね」
とりあえず、鳴と白河を席に着けるまでのつなぎで、ヘルプの女の子をカルロスと白河のテーブルに着けているが、完全に女の子の方が楽しんでいる。
…待機に残してる女の子の視線が痛いな、と樹は思った。
だって、今出勤してる女の子全員二人のテーブルに着けるわけにいかないし…
「あいつらも完全に営業モードだしよ」
悪のりなのか性分なのか、カルロスと御幸は、客で来ているはずなのに、話の仕方や身振りがどう見ても接客する側にしか見えない。
「…楽しんでるとこ悪いですけど、そろそろ鳴さんたち着けないといけませんよね…」
「気は進まねえけど、しゃあねえな…鳴、ユキ、行くぞ」
「はーい」「はい」
吉沢と、二人が座るテーブルに向かうに連れ、鳴と白河の表情に驚きが浮かぶ。
「あー、お待たせしました、ご指名ありがとうございまーす」
「ぎゃー!なんで来てんの、カルロ!一也!その格好エロい!やばい!」
「やあ〜、鳴ちゃん可愛い!マジ可愛い!となりおいで!」
一気にテンション全開になった御幸に、席に着いていた女の子たちが目を見張る。いつも一定の妙なテンションを維持している「ミユキ」のキャラしか知らないから、素の「御幸一也」が出てきてびっくりしたんだろう。
うん、御幸一也ってこんなやつ。多分鳴以外の人間どーでもいいと思ってるよね。
他のどんな客よりも危険人物はコイツなんだよなあ、色んな意味で。やっぱ出禁にすっかなあ…そんな思いで吉沢は鳴を席に着ける。
当の御幸は、鳴が来た瞬間から(多分正確には店に来た瞬間から)鳴以外全く眼中にないのか、吉沢の渋面も完全にスルーした。
「ユキちゃん可愛…」「同業者の入店はお断りって入口に書いてあんだろ、字が読めねーのかこの宇宙人ども、とっととお引き取りください」「いてえ!」
持っていたポーチをカルロスの顔面に投げ付けてやる。中には携帯と名刺とライターとハンカチくらいしか入ってないけど、店内の雰囲気に合わせてキラキラと光るチェーンとスワロフスキーの飾りが付いたバッグは、結構重い。
「あの…お前ね、一応俺の商売道具なんですけどね、これ…」
「は、なんかお前の顔完璧すぎて腹立つから、ちょっとくらい傷でも付いた方が愛着持てる」
相変わらず、褒めてるんだかけなしてるんだか、よくわからない。
まあカルロスも居るし、鳴親衛隊が二人も居る訳だから、とりあえずこの場はこのままにしてくか、と、吉沢はヘルプの女の子を待機に戻した。
…途中ちら、とキッチンのカウンターの方を見たら、原田が心配そうな顔して客席を見ていた。気持ちはわからないでもないが、やっぱあいつ心配性だ。
「ていうか俺、一也にも帰れって言ってるんだけど、あいつ見向きもしないし」
刺してやろうかな、とアイスを掴むトングを握る白河をカルロスが慌てて制止する。こいつ、ホントにやりかねない。
「一也といつぶりだっけ〜、高校の時はたまに会ってたよね!相変わらずカッコイイな〜」
「学校違ったしね。鳴ちゃんこそ、全く衣装が違和感ない程可愛い」
二人はもともと中学時代に知り合ってたけど、高校時代は別々だった。
面食いの鳴は御幸をたいそう気に入っていて、結構連絡とったり話題に出したりしていたけど、御幸の鳴の気に入り方は、それとちょっと違うような気がする、と隣に目をやってカルロスは思う。…だから俺が付いてきた訳ですが。
「で、どうなの最近、うまくいってんの?」
「ん?当然じゃん、俺が一番譲るわけないでしょ…」「そうじゃなくてさ」
店での話だと思ったら、ちがうらしい。
久しぶりに会った一也は、相変わらずカッコイイ。ホストクラブでも絶対もてるよね。
一番はカルロスらしいけど、結構いい勝負してそうじゃん。
ちょっと髪伸びたかなあ、それともワックスとかのせい?
観察してたら、いつの間にか一也の目がすっごく近くにあった。
「うわっ!なんだよ!」
「ははっ、相変わらず目おっきーね!もし女の子だったらおっぱいも大きいと思う」
「はあ、ヘンタイ!カルロスみてーなこと言うな!」
「カルロスそんなこと言うの?しょーがないなアイツも、じゃーなくて。…最近さ、原田さんとどうなの?」
…俺、鳴におっぱいがついてたら、なんて話したことないんですけど…っていうかやっぱりきた。御幸のやつ、絶対何か企んでると思ったけど、仕掛けてきたねぇ。
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