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※『Storyteller』の空さんへ捧げ物




Red Aceは歌舞伎町でも有数の人気店だ。夜の歌舞伎町で飲んだことのある人ならたいてい、名前ぐらいは聞いたことがある。


人気店になった、のほうが正しいかもしれない。店自体は4、5年くらい前からあったが、無数に存在するキャバクラのひとつに過ぎなかった。



箱もそこそこ、在籍のキャストもそこそこ、料金もそこそこ、ぼったくりだの違法営業だのはしないけど、特にこれと言った売りもない、まあ無難なキャバクラだった。



でもオーナーが変わって数ヶ月、変化は劇的に訪れた。

断トツのナンバーワンが現れたからだ。




それまで店のナンバーワンは、4、5人のキャストがつねに争っていて、毎月同じなわけではなかった。

そこに彗星のごとく今のナンバーワンが現れて、以来、一度もナンバーワンの座を譲っていない。2位以下は毎月変わるけど、1位と2位の間には毎回かなりの開きがある。



それでも、その事実が他のキャストのモチベーションのアップにもなって、自然と店全体もレベルも上がったのか、そのナンバーワンの評判と一緒に、当然店の名前も広まった。今やRed Aceを知らないのはモグリ、とまで言われるようになっていた。




そんな新宿歌舞伎町のキャバクラ「club Red Ace」では、いつもどおり開店準備が進められている。


とはいっても店内の準備は先に出勤した男子スタッフがすませているから、もうあとはキャストが出揃いさえすれば、店はいつもどおりだ。



ただ一点を除いては。




「あれ、白河じゃん!なんでこっち居んの!」

「ふん、“白百合“が改装工事に入ったからその間は俺もコッチ出なんだよ」

今月は簡単にナンバーワンは取らせないからな、とナンバーワンの成宮に言ったのは六本木にあるRed Aceの系列店「Club White Lily」のナンバーワン、白河だった。

「あと鳴、俺、ユキって名前でやってるから、酔っ払って本名呼ばないでよね」

「え、なんでそんなややこしいことすんだよ、酔っ払ってなくても間違えちゃうかも」

「なんでって…お前、さすがに本名でやるわけにいかないだろ、俺はお前みたいに犬とか猫みたいな名前じゃないんだから。…いいや、とりあえず客席でヘマしたらイッキね」

「ひっど!犬とか猫みたいってなんだよ!ま、俺こう見えても結構強いよ!」

「テキーラのショットグラスでだけどな」

「げっ!そんなん潰れるに決まってんだろ!…ていうか白河だってやるんだよ、お前そんな強くないじゃん」

「そもそも俺はヘマしない」

「ずりー!ずるいずるい!なんとか言ってやってよ雅さん!」

「…とりあえず騒ぐな」



鳴だけでも十分騒がしいのに、自分の一つ下の後輩どもは一緒にしておくと2人や3人だと思えない騒ぎを引き起こす。

揃いも揃って美形なんだから、ちょっとはおとなしくしてりゃいいものを、と原田はため息をついた。


「ため息ついてる場合じゃねえぞ雅、白河も1ヶ月ウチに居んだからな」

ひょいとキッチンから顔を出した吉沢が言う。



「えー、にぎやかになっていいじゃない、俺も仕事ふえそうだね」

「…俺は向こうの改装が終わるまでにこっちの店が壊れねぇか心配だ…」

「ちょっと、聞こえてますよ雅さん」

「ここは売り上げアップするぜヤッター!って言うところでしょ〜!?」

「ホントだよな〜、鳴と白河が揃い踏みなんて、裏方の俺たちにも目の保養だよ…あ、吉沢!そのグラスそっちじゃないだろ!あと、このケース早く外出してきてよ」

「おっ前はただ面食いなだけだろうが!…つうか人のことパシリに使ってんじゃねえ!俺はキッチンじゃなくてホール担当だっつの!」



普段ならテキパキと仕事をこなす平井まで悪ノリを始めて、吉沢は完全に乗せられている。たった一人増えただけだっていうのに、これだ。
開店前から無駄に疲れたと、原田はキッチンのカウンターにがくりとうなだれた。

「…あのー…そろそろ開店なんで、皆さんキッチンから出てもらえませんかね…」

いい加減呆れた顔をして樹が4人を呼びにくる。


…この店で1番苦労しているのは、実は彼かもしれなかった。



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