秋の不安定な季節に降ってきた雨は次第に勢いを増して、たちまち足元には大きな水溜まりが出来ている。
ブチャラティと私は二人で買い出しに出ていた所で、今はバールの軒下で雨宿り中だ。
バールの店主がブチャラティに気付いて店内へと声をかけたが、ブチャラティはひらりと手を振る。

「この雨で満席になるだろう。オレたちは軒下を貸してもらえたらそれでいいさ」

やんわりと断ったブチャラティに店主はそれじゃあとエスプレッソを二つ差し出した。
代金は受け取ってもらえなかったとその一つを私に渡して、ブチャラティがへにゃりと眉を下げて笑う。

「ブチャラティの人望のお陰だね」

「そんなんじゃあないさ」

淹れ立てのエスプレッソを並んで飲む。雨で冷えた身体がじんわりと温まっていく。
ほぅ、と一息つけば、隣でブチャラティも同じようにふぅと言ったので互いに顔を見合わせて笑った。

「揃っちまったな」

「ふふふ、そうだね」

ブチャラティが今度は少し照れ臭そうに笑う。鼻筋を掻いて照れを隠そうとするブチャラティにドキリとしてしまう。
雨は軒の糸水となってカーテンのように見慣れた街並みと私たちを切り離した。後ろから聞こえるバールからの喧騒も雨音で皮膜が掛かったようだ。
風が吹いて雨がさぁっと吹き込んで、私のヒールの爪先を濡らした。

「もう少しこっちに寄るといい」

ブチャラティが気付いて、頭を揺らして言う。私は少し躊躇って結局ブチャラティへ向かって一歩移動した。

「ナマエ、もっとこっちへ」

ぐいっと肩を抱かれて、ブチャラティの腕の中に収まる。雨に濡れたせいだろう、目の前の彼の胸元からマリンシトラスの匂いが強く香った。

「そんな顔してると、都合のいいように考えるぜ」

頭上から聞こえてきた声がいつもより色気を帯びていて、驚いて顔を上げるとブチャラティの青い瞳とぶつかる。
コバルトブルーに雨垂れが映り込んでいて、まるで漣のように揺れていた。私はどんな顔をしてブチャラティを見つめていたかもう解っている。

「私も……そんな事言われたら都合のいいように考えるよ」

そう答えた私の返事にブチャラティは一瞬海のような瞳をぱちりとさせてから、堪らないという風に笑った。

「この雨が上がったら、ナマエに話したいことがあるんだ。聞いてほしい」

「解った。きっともうすぐ雨も止むわ」

軒下から空を見上げれば、既に遠くに青空が見える。これでもし虹が出たら、私から先にブチャラティに「Prendimi」と言おうと思った。



漣の群青を捕まえる

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