いつものレストランにナマエとブチャラティが打ち合わせしていると、凄まじい金髪美女が凄まじい剣幕で乗り込んできた。

「ブチャラティ!昨日の夜一緒にいた女は誰なの!?」

「女?どれだ?」

「どれって……しらばっくれないで!ブルネットの女よ!」

「……ああ。いや知らないな」

「嘘!ホテルの前で抱き合ってるのを見たのよ!」

「互いに名前を教えなかったしな」

「……ッ、そういうことじゃあないわ!!」

そのやり取りを聞いていたナマエはまたか、とうんざりする。
我関せずの姿勢を取ってティーポットをカップに傾けた。
その些細なかちゃん、という食器の音に、ブチャラティは席を立ち金髪美女とレストランを出ていく。
紅茶を啜りながらナマエはレストランの窓からブチャラティと泣き叫ぶ美女をぼんやりと眺めた。
金髪美女の澄んだエメラルドグリーンの瞳から大粒の涙が溢れるのがここからでも見える。
窓枠に切り取られた映画のワンシーンのような美しさだ。

「もう別れる!!」

「?そもそも俺たち元々付き合ってねぇだろ」

ブチャラティは彼女を慰めるでもなく、本気で解らないといった表情で首を傾げた。
パシン、と乾いた音がする。
実際には二人の話し声すらも聞こえないのだが、こんなことは日常茶飯事で展開は容易く想像できた。
人々に好かれ慕われるブチャラティという男がその見た目を生かして公私共に女性関係が派手だということを、彼が今のように月に一度は必ず女性にひっ叩かれるため嫌というほど知りすぎている。
誰にでも同等に優しいブチャラティは誰にでも同等に冷たい。
仕事上での一夜限りの相手は勿論、今外で泣きわめいている美女もブチャラティにとって真の恋人ではない。
ナマエはお盛んなことだとも懲りないなとも思う。
ブチャラティのことはギャングとしてもリーダーとしても尊敬はすれど、女の視点で男として見るとやはりクズとしか言えなかった。
女のビンタなど避けられる筈のブチャラティが毎回叩かれることに甘んじているのも知っているが、それを差し引いてもよくもまあ同じことを繰り返すものだと呆れが先にでてしまう。
金髪美女が美しい顔を歪ませて説明することも憚れるスラングを吐きながら(聞こえないがきっと言っている)立ち去ると、ブチャラティはビンタされた頬を擦りながらレストランに戻ってきた。
美女の後ろ姿を見ていた時には平然としていたブチャラティがナマエを見ると大袈裟にはぁと溜め息をつく。そんな仕草も芝居染みているがブチャラティの整った容姿なら絵になった。
手のひらを上に向けて肩を竦めるブチャラティにナマエも同じポーズを取って、彼のカップに紅茶を注いでやった。
元座っていた椅子に腰を下ろしながら「Grazie.」と言ったブチャラティが紅茶を飲むと、叩かれたところに染みるのが僅かに眉をひそめる。
ナマエはハンドバッグからハンカチを出すと黙ってブチャラティに差し出す。

「彼女とは本当に恋人じゃなかったの?」

「付き合ってねぇよ。2ヶ月間週3で寝たぐれぇで」

「それを付き合ってるって言うんじゃんよ」

受け取ったハンカチで口元を拭うブチャラティが吐き捨てた言葉にナマエは呆れる。
うんざりと首を振るナマエにブチャラティも苦笑した。

「大体ベッドでの“愛してる”なんて信憑性ないだろ」

「さいってー。その内に痛い目見るよ」

「現にひっぱたかれてる」

「背中から刺されたりして」

「怖いこと言わないでくれ」

「嘘ばっかり。そんなこと怖くもなんとも思ってないくせに」

「ははは。まぁ、仮にそうなったらジョルノに治して貰うさ」

いつもの真面目さは身を潜めて悪びれもせず飄々と話すブチャラティに、ナマエは溜め息を洩らしどこか大人びてる新入りの顔を思い浮かべる。

「一番年下のあの子にそんな無駄なことさせないでよ」

「あの子?ジョルノが?そんな可愛いもんじゃあねぇだろ」

「少なくともブチャラティよりは可愛げがあるよ」

「聞き捨てならねぇな。妬けちまう」

「そういうのを止めなって言ってんのよ」

「心配してくれてありがとうな」

「そんなこと言ってないじゃん」

「可愛いヤツだな」

「話聞けよ」

「そんなに俺のこと好きか」

「やだよもう。こんなヤツ。信じられない、バカ」



シュガーレス

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