例えばナイフに添える指だったり、スプーンを口に運ぶ動作だったり。メインのポワレを一口に切り分ける大きさも少し小さめに切る辺り上品さがある。
姿勢は真っ直ぐに手元と口だけが動くその姿は、どのメンバーよりも美しい。

「フーゴの食べ方って綺麗ね」

「……マナーに煩かったので」

誰が、とは言わないフーゴに私は察するも「ああ、そうなの」と素っ気ない返事しか出来ない。
ふと出てしまった言葉だが、少し考えれば解ることだ。フーゴの過去を知らないわけでもないのに。
私が気まずそうにしていると、フーゴがふっと笑った気配がした。

「良いですよ、気を遣わなくても。ナマエに誉められるのは素直に嬉しいです」

「……ならいいんだけど」

グラスの水を一口飲んで、またフーゴの手元を見る。
ナイフとフォークを動かす指がひらひらと青い魚のように動いて切り分けられた野菜はフーゴの口へ入り、咀嚼され、嚥下する時には喉仏を上下に動かした。
生きるために必要な食事の風景がこんなにも官能的だということを、私はフーゴに会って初めて知ったのだ。
彼に切り刻まれて体内に取り込まれる野菜や肉はどれほど幸せか。胃や腸の内壁に吸収され、フーゴの血となり肉となる食べ物に嫉妬にも似た感情を抱き、それにとって代わりたいなんて知ったら彼はどう思うのだろう。

「ねぇ、私が死んだらフーゴに食べてほしいって言ったらどうする?」

「どうする?って?」

「嫌?」

私の質問にフーゴは少し考えるように、かちゃんとナイフとフォークを皿に置いた。

「どうしてそんなことを聞くんですか?」

「羨ましくて。私もフーゴの一部になりたいもの」

「……もうなってますよ。十分すぎる程ね」

フーゴの手が私の口唇へ伸びる。親指の腹で下口唇をなぞられて、無意識に吐息が洩れた。
名残惜しそうに目を閉じてしまう私をフーゴはどう思っているのだろう。

「それに僕にそんな趣味はないし、ナマエが僕より先に死ぬなんてまっぴらごめんだ」

フーゴが食事を再開する。
やっぱりその姿に堪らなく欲情してしまう。

「……ねぇ。それ食べたら出ない?」

「今日のドルチェ、折角の苺のケーキなのに」

「今日の私はドルチェより甘いと思うわ」

「……そこまで言うなら食べてみない訳にはいかないな」

フーゴに食べてもらえるなら、彼の好きな苺のケーキより甘くなってみせる。
だから残さず食べてね。



召しませ、この愛

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