月末恒例の伝票処理を終わらせる為にフーゴとアデレードはアジトに缶詰め状態になっている。
それもこれも締め切りギリギリになって領収書を提出するメンバーのせいであり、アデレードが加入し補佐するようになってからは大分楽にはなったのだが、それでもやはり締め切りは守られないのがこのチームの欠点のひとつだ。

「すまない、ひとつ出し忘れていた」

ガチャリと扉を開けて顔を出したブチャラティが、申し訳なさそうにアデレードへ伝票を一枚差し出す。

「仕方のない人ねぇ。ドルチェひとつじゃ誤魔化されないわよ」

「おっと。アデレードに嫌われたらまいっちまうな。それならこれで許してくれ」

ブチャラティは腰を屈めてアデレードの頬にキスをした。チュッと音がして離れるブチャラティの手にはドルチェの入った白い箱がある。

「これで何人の女性を誤魔化してきたの?」

「人聞きの悪いこと言わないでくれ」

クスクスと笑い合う二人を見ていたフーゴの目の前にふっと人影が差した。

「ごっめーん!フーゴ、これもお願いね!」

「は?だからあれほど何回も確認しただろ!」

ルナも同じように伝票をぴらっとフーゴの目の前で揺らすと、鬱陶しそうにフーゴはそれを払う。

「違うバッグに入ってたんだよ。フーゴもドルチェ食べて良いよ」

「あれはブチャラティが買ってきたんだろ!」

「私が選んでブチャラティが買ったんだからいいんだよ」

「良くねぇよ」

「なにフーゴもあの二人みたいに私からキスして欲しかった?それとも疲れてるみたいだしおっぱい揉む?」

「〜〜〜ッ!ふざけるなよ、誰のせいで疲れてると思ってるんだッ!」

「あぁん!」

「わざと変な声を出すんじゃあないッ!!」

フーゴが椅子から立ち上がってルナの両肩を掴むと、わざとらしくルナは身体をよじった。

「まぁまぁ、二人とも。それくらいにしておけ」

「フーゴ、ルナ。お茶にしましょう」

ブチャラティとアデレードがお茶の準備をしながら二人に声をかける。
ルナはパッとフーゴの腕から離れてソファへ腰を下ろした。フーゴも溜め息をついてデスクの上を簡単に片付けてからルナの隣へ座った。

「アデレード、どれ食べる?」

「そうねぇ……ルナは?」

「私、チョコレート食べたい。いい?」

「Si.私はこのパイを頂くわ」

女性二人が箱を覗きながらドルチェを物色している光景をブチャラティとフーゴが眺める。
ルナもアデレードもタイプこそ違えどどちらも美しく魅力的な女性であり、仲も良い。今のように男の入る隙さえない時もある。
それぞれドルチェを選び紅茶とともに食べ始めれば、会話の殆どはルナとアデレードが主体となる。

「この前のスパ、良かったよね」

「スパなんていつ行ったんですか?」

「南国をイメージしたスパがオープンしたからルナとこの前任務帰りに行ってきたの」

「任務の後は寄り道せずに戻ってきて欲しいんだが」

「嫌よ。どろどろで帰ってくるなんて」

「返り血とか一切無かったから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃあねぇ」

「ココナッツウォーターが美味しかったわ」

「冷やしパインも!」

「堂々と寄り道するな」

「フラワーバスもあって、薔薇のお陰で肌がすべすべよ」

「アデレードの肌って本当にすべすべだしきめが細かいの。ブチャラティ知ってた?」

「は?」

「お、おいルナ!」

「胸もハリがあって綺麗だし羨ましい〜!」

「……」

「ルナ!その手つきやめろ!ブチャラティもアデレードの胸元を見るんじゃあない!」

フーゴが空で両手を丸めて動かすルナと目を細めてじっとりアデレードの胸元を見るブチャラティを慌てて止めに入る。

「アデレードも止めてください!」

「フーゴ」

フーゴはアデレードを振り返って増援を頼むが、彼女がちょいちょいと手招きした。不思議に思いながらもアデレードの口許に耳を近付ける。

「……ルナの胸元の……フーゴがつけたんでしょ」

「……え?」

「相性が良いのは解るけれど、歯形が痛そう」

アデレードがフーゴの胸元を指でトントンと叩いた。言われた事の意味を理解してフーゴはバッと身体を離す。

「なになに?フーゴ、アデレードに触られて赤くなってるの?やらし〜!」

「違う!何でもないッ!お前、当分スパに行くなよな!」

「何で?あ、一緒に行く?」

「行くか!!」

「照れちゃって〜〜〜」

キレるフーゴをからかうルナを見るのは日常茶飯事だ。
やれやれ、とブチャラティがアデレードの隣に座った。

「フーゴと何を話したんだ?」

「内緒」

「妬けるな」

「嫉妬するブチャラティもセクシーで好きよ」

「……はぁ、全く敵わないな」

クスクスと笑うアデレードの肩に凭れてブチャラティはそっと目を閉じた。




なんて愉快なお茶会事件

いたずらっ子な君たちにくびったけなんだ




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