別に死なんて怖くは無いのだけれど、不意にこの胸が刻むリズムが途轍もなく愛おしくなる時はないだろうか。
それは突然襲ってくる風の様に、また波の様にどっと押し寄せてくる。

何故今頃そんなことを思ったのかはあまり聞かないでほしい、今現在自分だってその理由が分からないのだから…聞かれたって答え様がないだろう?


『どうしてだろうね』


「キョウハヤケニ、クチヲウゴカスノデスネ」


モノクロのソファーに身体を横たわらせて、手に持っているダーツの矢を人差し指と親指でコロコロと転がしてみる。

何の変哲も無いこのチンケな玩具が武器になるなんて誰も思わないし、想像もつかないだろ?

でも俺の世界はそんなとこ。
俺の居座る世界はこんなもん。

誰かがいつも狂って居て、それでいて殺伐としている。


最近では俺の出番も役目も少ない。
それはあの白いガキのせい――世界征服だか、地球略奪戦かは知らないが俺から仕事を奪おうなんていい度胸した奴も居たもんだよ。

御蔭で最近は暇で暇でしょうがない。悪夢で苦しむ人間もおちおち見ていられないんだ、そう全てはアイツのせい。


『この地も大分姿を変えたよ、それでいてとても虚空だ。
ひとつの分散地点から枝分かれする運命と云う未来、そんなものを支配したってなんの役にもたたないだろうに――馬鹿が考える事は理解し難いことばかりだ』


「ソウイイツツ、ソレヲカンショウシテイタノハアナタデスヨ」


ぶすっ
ぶすっ
ダーツの矢が的に刺さる。

その中央に貼られた一枚の写真。


『だって気になってさ、その馬鹿が何処まで侵食していけるかそれって見物だよ?』


「ソウデスカ、ワタシタチニハリカイシガタイデスガ」


『そうだろうね、君たちは何も感じず何も理解出来ない者。
当然と云えば当然の結果さ、残念だったね』


クスリ、そう口角を吊り上げて笑うと最後の一本を的に突き当てる――かと思えば近くに立っていた復讐者にその矛先を向け、何気無く投げてみた。
その黒く禍々しい身体には外傷も見られない、ただ矢が身体を貫通し反対側の地面にポタリ。

虚しい音を響かせたダーツを見て、何かを思いついた様にソファーから身を起す。

乱れた髪を掻き揚げる姿はとても絵になる、そしてその紅い双眼はギラリと鋭い光を宿している。
それはまるで狂犬の眼――…肉食動物の様な捕獲者の目だ。


『面白い事を考えた』


「マタデスカ?」


『またとは心外だな、復讐者』


「コンドハ、ナニヲ」


『ふむ、考えてみたんだよ。
そのパラレルワールドって奴が本当に存在するならば、再び同じ時を過せるのではないかとね』


「フタタビ、オナジトキ…トハ」


『そのままの意味さ』



「面白くなってきた。」
そう彼は笑うのだ。

悪魔の様な微笑みに
死神の様な凶悪さ。



『もう一度あのスリルを味わえるのなら、これ程旨い話はない』


「マタオデカケデスカ?アマリムダンデデラレテハコマリマス」


『はいはい、そう硬い事言うなって頑固者』



カツン、カツンッ

カツン、カツンッ



カツン、カツンッ

カツン、カツンッ


カツンッ…



『Io sento shivery』




全ては始ったばかり――…


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