女を撃った―…
『裏切り者には消えてもらいます、悪く思わないで下さいね。これも裏社会の掟ですから』
「っ…ばかな、おとこ―…あたしを殺せば…はあッ……あなたは、おわりよ――…くぅ…う゛」
『私は他人の評価などに興味はない、ですからもう安らかに眠りなさい―貴女の人生は此処で短き生涯を終えるのです』
瀕死の彼女の額にまだ少し暖かい銃口を突きつけて、引き金にそっと指を絡ませた。
女は不適に余裕の笑みを浮かべて、遺言の様に一言こう言った――…
「貴男、ばかね」
パァアン…!
それと同時に火を噴いた銃、遂に動かなくなった彼女はズルズルと壁から滑り落ち床に倒れた。赤い赤い血が滴る。
ピチャ、ピチャ…滲み出た血を踏む度に新調したばかりのスーツを汚す。鮮やかな赤、派手な紅―…纏わりついた臭いは血腥い。
『馬鹿なのは貴女も同じでしょう』
敵地のど真ん中で仲間との通信をするなんて、あからさまに私はスパイですと公表している様なもの。少しは名の売れた人物だと聞いていた分少しショックだ。
だがそんな事は関係ない、早く綱吉に連絡を入れて相手側のボスを割り出してもらわないといけないのだから。
「アッシュ、今銃声がして――…っ!?」
『ああ綱吉いい所に、今報告をしに行こうかと「これ、アッシュがやったの――?」
『私以外に誰が居ますか、彼女はスパイで今私が処理を「っなんて事したんだよ!!どうして彼女を射殺なんてしたの!?」
『綱吉落ち着いて、今詳しい説明をしますから』
死体を目の当たりにしたツナはいきなり声を荒げ興奮した声色でアッシュに激しく問い掛けた、その声は広い廊下によく響き騒ぎを聞きつけた守護者達を呼び寄せる。
現場についた者は一瞬顔を顰めて息を呑んだ、今さっきまで動いていた生暖かい死体を見て―…震えていた。
誰の肩も唇も、あの骸と雲雀でさえその酷さに目を見開いた。
「な、何かの冗談だろ…?アッシュ」
『彼女はボンゴレを内部から壊そうとして送り込まれたスパイだ、裏切り者には裏社会での制裁を――それがマフィア界での決まり』
「ッだからってテメェ!なんで殺したりしやがったァ!!!」
『これ以上彼女を野晒しにしていればボンゴレ壊滅は時間の問題です、私は最善の手段を選んだまで―貴男だって私と同じ立場ならそうして居た筈ですよ』
「だからってッ…だからってお前……!!」
怒りを堪えきれない獄寺は近くの壁に拳をぶつけアッシュを睨む、隣に立っていた山本は俯き目を瞑り雲雀と骸はただ死体を見て黙り。
今でも血が滲む。
「アッシュ」
『なんですか?綱吉』
「どうして、どうして仲間を殺したの?!彼女は味方だった筈なのにッ」
『だからさっきも言った様にボンゴレの情報を味方側に流していたんです――私だって殺したくて殺した訳ではありません。ボンゴレを思ってこその判断です』
「……っ…く、ぅう」
『………』
情け無い声と共にその場に崩れ落ちたツナは泣いた、獄寺も泣いた、かけつけたランボも泣いた、京子もフゥ太もビアンキも泣いた。
山本は泣きはしなかったが悔しそうに唇を噛んで必死に辛さを耐えていた―…誰もが泣いた、愛された彼女だからこそ皆泣いた。透明な塩辛い涙を流して、ただ泣いた。
咽び泣き、啜り泣き、嗚咽を噛み殺した涙は血に混じり消えた…
ただ割り切る事が出来なかった、彼女は誰にでも優しく社交的な女性、気の利くいい子だったのにまさか敵だったなんて…
誰も想像しなかった
哀しみ
誰も予想しなかった
裏切り
その衝撃は大打撃、だがそれよりも更なる不幸が待っていた。
それは今ここに居る誰もが想像も予想もしていなかった残酷な悲劇。
これはその通過点でしかない、ちっぽけな前置き。
誰も予期しなかった
幕開け
それは既に一発の銃声から始まっていた――…
消えない事実
(そんなに悲しむのなら)
(初めから関わらなければ良かったのに)
↑prev next↓