in other words

 ついにこの日が来てしまった。
 待ち合わせ場所に立ち、綾は自身の足下に視線を落とす。ごく最近購入したお気に入りの靴を視界に入れて、今日という日の自身の気合いの入れように気恥ずかしくなった。何せ今日は、安室とデート(暫定)の日だ。この前流れで取り付けたチャンスを逃してなるものかと、今日は総力戦である。数日前からスキンケアやら何やらに気合いを入れていたおかげで、今日は肌の調子がすこぶる良い。服も自身のレパートリーの中から選りすぐった。はじめて一緒に出かけるというのもあるが、何よりこの後に繋げなければという焦りがあった。安室が綾と一緒に出かけてくれるのは、この前起きた殺人事件の知り得るはずのない情報を綾が知っていた理由を、安室が知りたいと思っているからだ。この質問の答えが分かれば、安室は綾と一緒に出かけてくれるような事はしてくれないかもしれない。何かしらの方法で、彼をつなぎ止めなければいけない。今日だけでなく今度、彼との関わりを持ちたい綾としては、今回はまさに決戦である。デート前の女とは思えぬ気合いを拳に込めて悶々としていると、不意に前方で車が停車する音が聞こえた。
「おまたせしました」
 白いスポーツカーの運転席から軽く片手を上げる安室が、未来の夫の姿と重なる。「いってくる」と言って出勤していく零さんと同じ顔をしているが、彼は「零さん」ではない。安室透を目の前に、綾の脳裏にふと過る。彼は綾が好きになった『降谷零』ではない。しかし、間違いなく同一人物だ。切なさを孕んだ感情に苛まれながら、未来の夫の気持ちを思う。もしかしたらあの人も、今の綾と同じような事を思っていたのかもしれない。
「どうかしました?」
「……いえ、すみません」
 不思議そうにしている安室に声をかけられ、綾はハッとする。折角のデート(暫定)だと言うのに、暗くなっている場合ではないと綾は車に駆け寄る。安室に促されて車のドアを開け、助手席に乗り込む。カバンを膝に置き、安室に「今日はよろしくお願いします」と会釈をした。それに対して「こちらこそ」と応えてくれた安室は、車のウインカーを出した。
「もしかして、こういう車に良く乗ってます?」
「え?」
「いえ、乗り方が慣れているようだったので」
 確かにこの車の乗り心地は良いものではない。それはスポーツカー全体に言える事だが、安室に指摘されて綾は早速「しまった」と心の内で悲鳴を上げた。綾も未来でこの車に初めて乗った時、ぎこちない動作で乗り込んだものだ。座り心地悪いな……などと考えながら腰を落ち着けたような気がする。それが何度も乗るうちに慣れてしまっていたのだが、その癖がここにきて出るとは思わなかった。そして何より、安室に指摘されるとも思わなかった。だから言い訳も何も考えてすらいない。
「えっと……」
 そろりと視線を逸らしてから、綾は適当な事を口にした。
「昔、うちにも似たような車があったんですよ」
「成る程、それで……。ちなみに車種はなんですか?」
「なんだったっけ……私、車に詳しく無くてあまり覚えてないんですよ」
 安室からしたら何気ない雑談なのだろうが、綾としては失言がないか不安なところだ。さっさとこの話題を切り上げたいと内心考えながら笑うと、安室はそれで納得したようだった。

   * * *

 車に揺られて二十分程。都内から少し離れた大きな施設の駐車場で車が止まる。今日の行き先については安室が案内してくれるらしく、綾はデート場所を知らない。それ故にドキドキとしているところがある。車から降りた綾が見た先には、特徴的なドームのような形をした建造物が見える。その手前には全面ガラス張りの施設があり、中にある様々な植物の姿が伺える。この施設の看板を確認してはいないがこの景色だけでここが何なのか分かった。
「植物園ですか」
「ええ。実は前から行ってみたいと思ってはいたんですけど、男一人だと行き辛くて」
 肩を竦めてみせた安室は、車のロックをかけてから一歩踏み出す。ここで彼の全身を確認すると、当然ながらエプロンをつけていない私服姿で、今日彼はオフなのだと実感させられる。これはやはりデートなのでは……と思考を奪われていたせいで、安室が何やらこの施設について説明してくれたのに聞き逃した。
「この植物園に併設されている喫茶店が評判なんですよ」
「へぇ……」
「まずはお茶にしましょうか。その後、園内を見て回りましょう」
「はい」
 安室と共に施設に入り、施設の案内を確認してから二人で植物に囲まれた通路を歩く。アーチのような骨組みに張り巡らされ植物達をひとつひとつ流れるように眺めながら、評判だという喫茶店の前に立つ。ガラス張りの店内には花々が美しく飾られており、厳かな静けさを纏っている。品も良くセンスも洗練されている空間を前に物怖じしてしまいそうになる程だ。いかにも女性が好みそうな洒落た雰囲気である。確かに、いくら安室といえどここに一人で来るのは勇気が要りそうだ。
 外観をじっくり確認したところで、綾はガラス戸に印刷されている店の名前に目を止める。
「喫茶アポロ……」
 良く知る喫茶店と非常に似た名前に口元がニヤつく。これには安室も思うところがあるのか、クスクスと笑っている。
「凄い偶然ですよね。でも、この店の名前には理由があるんですよ」
 入りましょうか、と言う安室の後に続き、綾は案内されたテーブルに腰掛ける。ガラス天板のテーブルの下には植物の鉢植えが置かれており、天板越しにその姿が確認できる。
「こんな喫茶店があるなんて知りませんでした。本当に良い雰囲気のお店ですね」
「ですよね。僕もポアロに間違い電話がかかってくるまで知りませんでした」
「間違い電話?」
「ええ」
 なんでも、喫茶ポアロと喫茶アポロとで名前が似ているせいで、間違えて予約の電話をかけてきたお客さんがいたらしい。その客の話を聞いて興味が湧き、後で調べたらこの植物園内の喫茶店が見つかったのだという。似た名前の喫茶店同士、喫茶店員である安室も何か思う事があるようだった。
「もしかして……今日は敵情視察も兼ねてます?」
「正直に言うとそれもあります。ここはハーブティーが美味しいそうなんですよ」
 実は最近ハーブティーの研究をしていて……と喋り出す安室の話を聞きながら、綾は内心で「ああ」と理解する。転んでもただでは起きない、とはこの事だろうか。いや、そもそも安室さんは転んですらいない。要は綾の尋問と敵情視察を同時に行ってしまおうという話だ。急に現実を浴びせられて心の内で沈むが、何やら熱心にハーブティーの話をしている安室を見ていると和んできた。未来の世界でも思ったが、この人は存外喋るのが好きだ。自身の知りうる確固たる知識を教えてくれているのだろうが、一人で突っ走ってしまうきらいがある。彼の変わらぬ部分を見つけて思わず笑うと、安室はハッと我に返った。
「すみません、喋り過ぎましたね」
「いえ、安室さんらしくていいと思います」
 本当に彼らしい。懐かしさ半分でクスクスと笑いながら、綾はテーブルの上に置かれたメニューに視線を落とす。そしてそのメニューの向こう側、ガラスのテーブルの下に備え付けられた植物に目が止まる。中心から細長い大量のおしべのようなものが放射状に伸び、まるで球体のように見える植物だ。まるで大きな丸い実がくっついているようだ。
「変わった花ですね……」
 そもそも『花』という認識でいいのだろうか。初めて見るそれに視線を奪われていると、不意に綾の傍に誰かが立った。
「月の芽、って言うんですよ。この花」
 上から降ってきた女性の声に顔を上げると、そこにはエプロンを身につけた女性店員が立っていた。長い髪を後ろで束ねている清潔感ある彼女は、テーブルの上に水の入ったグラスを二つ置いた。
「遺伝子組み換え操作で作った、ここで最初に生まれた花なんです。おしべの色を変えることで、夜空に浮かぶ幻想的な月を表現したかったんですって。色を変える過程で、めしべの色に影響が出てしまったんだけど、それがまるで月に芽が生えているように見えるという一品なんです。だから『月の芽』という名付けられたんですよ」
 さながら先程の安室のようにペラペラと喋る彼女は、まるで少女のように得意げだ。見た感じは安室よりも年上に見えるが、熱弁する姿はなんとも微笑ましい。そんな女性店員の話を聞きながら、安室は疑問に思ったらしい事を尋ねる。
「ここで作ったんですか? この花」
「ええ。この植物園の奥に、研究施設があるんですよ。この植物園を運営している親企業の実験場所なんです」
「成る程……」
「あっでも、安心してください! ここでお出ししているものには、遺伝子組み換え操作で作ったものは無いので」
 あくまで観賞用の植物のみが遺伝子組み換え操作で生み出されたのだと訂正した彼女は、気を取り直してゴホンと咳払いをする。
「ご注文はお決まりですか?」
「僕はハーブティーとシフォンケーキを。糸見さんは?」
「えっと……私もハーブティーと……苺のパンケーキで」
「畏まりました」
 注文を受けてキッチンの方に戻って行った店員を見送り、二人で一息をつく。

「さて……」
 本題に入ると言いたげに、安室はテーブルに両肘をつき指を組む。綾はついに来たかと、姿勢を正した。
「約束の件について、話して貰えませんか。単刀直入に聞きますが、何故糸見さんは先日の事件の犯人をご存知だったんですか?」
 安室の口調は穏やかであったが、綾を逃がす気もないといったニュアンスも含まれている。さぁ白状しろ、とこちらを見る安室と視線を交えてから、綾はゆっくりと口を開いた。
「前にテレビでそんなニュースを見たんです。警察官が殺人を起こしたという感じのものを……かなりうろ覚えですけど」
「しかし、今回の事件は被害者の遺体がクリスマスの飾り付けをされるという特殊なものだ。かなりインパクトのある内容です。そうそう他の事件と勘違いはしないように思うのですが」
「それは……私もそう思います。でもあの時は、なんだか分からないけど勘違いをしていたみたいで……」
 前にニュースで見たのは事実だが、勘違いをしたというのは嘘だ。しかし、安室に「未来の世界に行ったから知っている」と言ったところで、信じて貰えるはずがない。とりあえず、今回は安室を誤摩化せればいい。あの零さんを相手にそれができるのかは微妙だが、シラを切るしかない。
 きっとこの後も追及されるだろう、と身構える。しかし、安室は予想外にも「そうですか」と身を引いた。あまりに呆気なく納得されたものだから、綾は拍子抜けする。今日安室は、綾に「何故公表されていないのに犯人が警察官だと知っていたのか」という追及するために来たはずだ。綾もそれについて正直に話すと約束した。だからこそ、もっと食い下がっていてもおかしくない。それなのに、何故こうもあっさりしているのだろう。逆に綾が動揺していると、それに気付かない振りをした安室は「では、」と口を開く。
「もう一つ。この前糸見さんはスーパーでたくさんセロリを買われていましたよね」
「……はい」
「確か、僕の好物がセロリだからだとか」
 ストレートに言われ、綾は若干居心地が悪い。勿論安室の言う通りなのだが、暗に「綾が安室の事を好いている」というのを理解された上での発言は、流石に気恥ずかしい。公開プロポーズをかましておいて今更、とは思うが、これ以上恥の上塗りはしたくない。膝の上に置いた手をぎゅっと握りつつ、綾はそろりと安室から視線を逸らす。
「非常に言いにくいんですが、僕の好物はセロリではないですよ」
「えっ!?」
 思わぬ安室の発言に、綾は再び正面に視線を戻す。セロリを生で食べる事があるくらいの零さんが、そんな馬鹿な。無言で呆気に取られていると、安室は胡散臭くニコリと笑う。
「嘘ですよ」
「……な」
 何故今、一瞬だけ嘘をつかれたのか。呆気に取られていると、安室は組んでいた指を解いてから、椅子に深く座り直した。天井から垂れ下がるように飾られている色とりどりの植物をバックに座っている安室は、流石というべきか絵になった。
「でも今の糸見さんの反応で充分に分かりました。糸見さん、嘘をつくのが得意ではないですよね」
「……」
 目の前の安室にも、未来の夫にも同じ事を言われると言う事は、そうなのだろう。
「確かに、僕の好物はセロリです。しかし、このことを誰かに話した事はありません」
「えっ。でも前に、ポアロで女子高生達が話してましたよ。安室さんはセロリが好きだ、って……」
 これは本当の話だ。確かに詳しくは聞き取れなかったが、そんな内容の話をしていたはず。そこまで考えてから、綾は「まさか」という可能性に辿りつく。確かに綾は、女子高生が「そんな感じの話」をしていたのを耳にした。しかし、詳細の部分までは聞き取れなかった。もし、その詳細の部分に致命的な内容があったらどうだろう。サァ……と若干青くなった綾を認めて、安室は親切に教えてくれた。
「職業柄……というか、探偵をしている時の癖で、個人的な情報は必要以上に他言しないようにしているんです。だから今まで、僕は自分の好物をあそこで話した事はありません」
 穏やかな様子が、まるで綾を追いつめるようだった。所謂チェックメイト、確実に相手の詰みを確信しての余裕が感じられた。
「これは僕の推理なんですけど。前にセロリが苦手な女子高生の子がいたので、苦手な彼女でもセロリが美味しく食べられるメニューのレシピを話した事があるんです。それ以降、彼女はセロリが食べられるようになったし、なんなら好きになったと話してました」
「……」
「僕も彼女が友達とこんな話をしているのを聞きました。『セロリ好きだよね?』『うん、安室さんにレシピ教えてもらえてから好きになった』だったでしょうか……」
 もしかしなくても、その女子高生の会話の一部だけを聞き取り、勘違いしていたのだろうか。そう言われてみれば、綾が女子高生の話を盗み聞きした時に安室もいたかもしれない。あまりに頻繁にポアロに行くせいで、いつ誰がどこにいたかが曖昧になっている。そもそも女子高生の話を盗み聞きしたという時点で曖昧だった。それに何より、自分の記憶力よりも安室の記憶力の方がずっと信頼できる。これは安室の巧妙な罠だったのだ。第一の目的を別の物だと思わせておいて、本命はこっちだったと言う訳だ。
「そういう事です。……それで、糸見さんにお聞きしたい。僕の好物がセロリだと、一体誰から聞いたんですか?」
 逃げ道はない。まさに背水の陣と言うべきか、綾には安室に立ち向かう道しか残されていなかった。どうする……と回転の悪い頭で考えてみるが、当然言い訳は思いつかない。ということはシラを切るか、開き直るしかない。
「分からないです」
「嘘ですよね。糸見さんのさっきの様子、僕の好物がセロリだと確信していた。その根拠があるはずだ。それに今日は、デートに付き合う代わりに糸見さんが正直に話してくれると約束をしていたはず」
 約束を反故にするのか? と言いたげに視線を向けられ、綾は「うっ」と息詰まる。確かにその通りだ。悲しいかな、安室はその情報が知りたいがために今日付き合ってくれている。今の彼の仕事は私立探偵兼、喫茶ポアロのアルバイトである。しかし未来の夫からは、既にこの時期には警察官であったと聞いた事がある。どういう事情かは分からないが、今の安室は探偵業も喫茶店員としての仕事も警察業も同時にこなしている可能性があった。言わずもがな多忙の身のはず。そんな彼を付き合わせてしまって申し訳ないという罪悪感が、少なからず綾の中にあった。
 ここはもう、シラを切るべきではないのかもしれない。嘘をついてもきっと見抜かれてしまう。綾が正直に話したところで信じては貰えないだろうが、ここまできたら、開き直るしか無い。
「安室さんの好物を知っていた件ですけど」
「ええ」
「安室さんから聞きました」
 綾がキッパリ答えると、安室は一瞬面食らったような顔をした。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。昔、安室さんに教えて貰いました」
 紛れも無い事実だ。綾は正真正銘、安室もとい、降谷零に好物を教えて貰った。嘘も何もないので堂々と言い放った綾を見て、安室は少しだけの困惑しているようだった。
「僕は過去に、貴方に会った記憶も話をした記憶もありません」
「そりゃあ……安室さんは知りませんよ」
 意味が分からない、と言わんばかりに首を傾げる安室を正面に、綾は本当の事を言い放つ。
「数年前に、未来の安室さんから聞いたんですから」
 酷く矛盾を孕んだ言葉ではあるが、事実だ。安室が顔をしかめているのを見て、初めて彼の優位に立ったかもしれないと内心喜ぶ。
「謎かけですか?」
「いいえ、本当の事です」
 迷い無く言えば、安室もなんとなく綾が嘘を言っているとは思わなかったらしい。しかしそれが余計に彼を困惑させているという事も、不快にさせているという事も分かった。
「……タイムスリップでもしたと言いたいんですか?」
 馬鹿げている、と言いたげな安室は頬杖をつき綾をじっと見る。嘘を言っているかどうか見極めようとしているのだ。どうぞ思う存分見極めてください、と腕を組むと、視界の端で何かが揺れた。
「素敵ですね。私もタイムスリップしてみたいわ」
 クスクスと笑いながら現れたのは、先程注文を取りに来た女性店員だった。軽い足取りで二人の座るテーブルの傍に立った彼女は、注文していたハーブティーをテーブルの上に置いた。透明なティーポットの中に入っているお茶には、さまざまなハーブが浮かび揺れている。
「最近、お肌が気になって気になってしょうがないもの。歳は取りたくないわ」
 冗談混じりにそんな事を言って、場を和ませようとする女性店員の行動や発言の意図に気付く。もしかして口喧嘩をしていると思われただろうか。その仲裁をしようと気さくに話かけてくれたんだろうと分かり、少しだけ気まずくなった。そう思ったのは安室も同じようで、先程のしかめ面を緩め、苦笑いを浮かべる。
「いえ、今も充分にお美しいですよ」
「あら嬉しい。ありがとうございます」
 ふふふ、と楽しそうに笑ってから、女性店員はハーブティーについての説明をはじめた。ハーブの原産地から加工方法、葉にまつわるエピソードなど、ペラペラと逸話を披露していく。それを二人して「へぇ〜」と頷きながら聞いているうちに、先程の緊張感ある空気もどこかへ行ってしまった。そうして女性店員がキッチンに引っ込んだ頃には、二人はすっかり気が抜けてしまっていた。
「……随分おしゃべりな方ですね」
 女性店員を見送り、小さな声でまじまじとそう言った安室の言葉に、綾は思わず吹き出す。
「それ、安室さんも人の事言えませんよ」
 思いの外ツボに入り、笑いを堪えるように綾が震えていると、安室は不服そうな顔でハーブティーに口を付けた。自分でもそうだと思ったのか、図星を突かれて何も言い返せないらしい。それが意外で、綾は可笑しくて仕方が無い。隙のない彼の新たな一面を見られた気がして、心は妙に満たされる。先程の女性店員さまさまだ。
「それで糸見さんは結局、その情報をどこで聞いたんですか?」
「……」
 まだセロリの情報源を探るつもりらしい。そんな安室を認めて、綾はニヤリと笑う。
「昔、貴方に教えて貰いました」
「……約束が違いませんか」
「これは嘘じゃないですよ、安室さん」
 安室さん、と名前の部分を強調して口にすると、彼は何か言いたげな表情になったが、同時に諦めたようでもあった。
「……まぁ、今日はそういう事にしておきます」

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