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『レヴィアタン、無事かい?』
「はい、万全です」
『そうか。アスモデウスの方は大丈夫だろうか?』
「櫛に関しては少年から伺っていると思いますが、彼が処理をした筈です。家にいる彼女達も無事でしょう」
『マモンは確かに良くやってくれたがしかし、処理が完璧でない可能性もある。ベルゼブブは好奇心が旺盛だから心配だ、彼女が触らないように配慮してくれただろうか…いや、私から家の方に連絡しよう』

私は先生に対して、絶対的に忠誠を持っていた。彼をルールにしている、私自身の為に、私が迷わないように。そして、根本的に彼に尊敬を持っていた。
しかし、たった今初めて感じた反感を、私は押し込めて置けなかった。

「リツカの方も、処置を受けて今は安静にしています」

確かに理解はしていた。わかってはいたが、今回の事では顕著過ぎるのだ。リツカへの愛を自覚した私には、先生のリツカへの無関心があまりに冷酷だった。
私は冷静な口調で、今回の事件に置いて一番の被害者の無事を報告した。

『そうか。…それと櫛の侵入経路についてだが、それは私が調べておくよ』

私は未だに戸惑っていた。自分の理解しえなかった自分を、完璧に理解するには少々時間がかかる。新しい“私”は先生の冷酷な軽さに、平静を失いそうだった。
先生は見ていない。人に好かれる事以外に関して、あまりに無頓着なリツカが、先生からのプレゼントだと思った物に対して見せた興奮を。“我が家の姫”と書かれたカードを、見つめていた事を。先生からのプレゼントだと信じ、美しい櫛を優しく撫でた事を。

「先生、失礼を承知して、貴方に願いがあるのですが」
『珍しいな、君がそんな事を言うなんて。君が望むなら、私は何でもしよう』

先生は電話口で笑っていた。

「リツカを愛してください」

しばらく先生からの返事は無かった。

『…またもや、君らしくはないな。心配をしなくても君達のお姫様の命は、私も力を尽くして護るつもりだよ』

口調は柔らかいままだった。しかしその恐ろしいまでの冷酷さは今までを凌いだ。
先生の偏愛を、私は理解出来ていなかった。先生は人を殺した人間のみを愛す。それでは叶わない。リツカは美しく純真な少女だ、彼に愛される事が一生ないように思えた。リツカは、おそらく誰の物より先生からの愛を欲しているのに。
リツカが望む物は、与えたい。しかしそれが叶わないのだ。私は酷い落胆を覚えた。

『…私を軽蔑するかな』

唐突に先生が尋ねた。

「いいえ、私自身の事で落胆をしています」
『君はリツカが愛しいのだね』
「はい」

私の迷いのない返答に、先生は再び沈黙した。

『…彼女は不思議な子だね、まるで、愛される為だけに生まれたようだよ』

先生はそう言って、電話を切った。
私はしばらく電話の切れた音を聞いたまま、目の前を見つめた。昼を過ぎた外気は、太陽光に煌めいた。しばらくして電話をしまった私は、再び病院に戻った。不思議な少女の安静を、もう一度確認するために。

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Dog-ear ??
SCHNEEWITTCHEN






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