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「ええ、必ず」
バックミラー越しに運転手は舞良に微笑んだ。
舞良はそれから家に着くまでに着替える事にした。
ボトルの成分表の面を見ると、洗い流さないといけないみたいだったので、仮面を落とすのは家でやろうと思い、スーツを脱いだ。運転手は気を利かせて仕切りを閉じた。
着替えの途中で、舞良は驚愕のあまり、ああ!と声を上げた。
驚いた運転手は仕切り越しに大丈夫ですかと尋ねた。
「時計がない…」
左手首に着けていた筈の、BELTAの時計が無くなっていた。
幾らなのかも知らない、高級な時計を舞良は無くしてしまったのだ。
ダイヤがついていた、金色の歯車が見え、文字盤がガラスで出来た美しい、BELTAの試作品時計…。
「どうしよう…どうしようっ」
舞良は今夜の事を急いで思い返した。
最後に時計を見たのは残業ながら、BELTA本店で着替えた時だ。
これではわからない。
響は時計のベルト部分が緩いと言っていた。
おそらくその余裕のせいで止め金が外れ、落ちたのだろう。
そこで舞良は最後にその腕に触った人を思い出した。
もちろん朱里だ。
引き留めようとする朱里は、舞良の左腕を掴んでいた。
舞良はその手を振り払った。
きっとその時だ。
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CINDERELLA STORY