15.


「いいか? おじゃましまーす! って玄関が開くだろ、そんでリビングに入ってきたタイミングでおめでとー! でいくからな」

 住み始めて一年が経過した部屋のリビングの中、入居する以前から設置されていたソファーに腰掛けている男二人の前で仁王立ちをしているオレは、念を押すように大袈裟に人差し指を立てて見せた。

「ちょい待ち、オレの位置からじゃよく見えないんで、せーの! が欲しいッス」
「わざわざ隠れないで玄関入ってすぐの所に立ってるのがいちばん手っ取り早いピョン」
「だーもう! うるっせーヤツらだな! だまってオレに従えってんだよ!」

 ぐだぐだとうるさい二人組──もとい、チームメイトの宮城リョータと深津一成を一喝してやる。すると、二人は腕を組んだままこちらに一瞥をくれたのち、わざとらしく目配せを交わし、事前に打ち合わせでもしたかのような盛大なため息をほぼ同時に吐き出した。
 シーズンオフのこの時期に、二人がオレの家に居る理由。それは、二ヶ月前ほど前にルームメイトからカノジョに肩書きが変わった名前の発言がきっかけだった。

「ねえみっちゃん、バスケやってる男の子が欲しいものって何かわかる?」

 入浴後の日課であるストレッチを終えてソファーに腰を下ろし、テレビに映る代わり映えのないバラエティ番組をぼんやりと眺めていたオレの背後から掛けられた声は、どこか切実な雰囲気を纏っていた。

「おまえとしこたまイチャついて過ごす時間が少なくとも三日ぐらいほしい」
「いえ、みっちゃんの話ではなく」
「はあ!? じゃあ誰に何を渡すってんだよ! ……わかった、宮城だな!? 好みだとか言ってたもんな!?」
「なんでそうなるの、男の子って言ったでしょ」

 頭の上にデカすぎるクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げると、彼女は「甥っ子がね、再来週誕生日なの」と神妙な面持ちで言った。
 甥っ子、というワードを聞いて思い出したのは、先のシーズン中、代表に選出されて浮かれ燻る気持ちを抱えながら訪れた練習場近くの公園での出会いだった。その時、バスケットボールを抱えてゴールに向かい、シュート練に励んでいたのが、なんと名前の甥っ子だったのだ。
 そんな出来事があったことを、今の今まですっかり忘れていた。というか、あの時はシーズン真っ最中だった上に、代表選抜による合宿と試合を控えていた。更に、名前との関係性や接し方について悩み、ありとあらゆることが盛大に絡まってゴチャゴチャしまくっていた時期だったので、今の今まで忘れていても仕方なかった、ということにしてほしい。

「そういやオレ、おまえの甥っ子とサシでバスケしたことあんだぜ。たまたまだけど」

 それを伝えると、名前は大層間抜けな表情をしてぽかんと口を開け、時が止まったかのように硬直してしまった。
 おい、だいじょぶか? と目の前でヒラヒラと手を振って見せると、彼女は震えるようなか細い声で「え……!?」と漏らし、雷に打たれたかのように大きく目を見開いた。

「なにそれ、初耳なんだけど……!」

 シュート練習をしていたところへ何の気なしに近づいて声を掛け、そっとアドバイスをしたこと。それはそれはキラキラした表情で見つめられ、そういう視線には慣れているつもりだったのに照れてしまったこと。その子どもの口から名前の名前が出て、口が回らなくなるほどに動揺したこと。そして、それをなんとか取り繕って会話を続けたこと。
 あの時の記憶を辿るようにぽつぽつと話し始めると、名前は小さくこくこくと頷きながら、なんとも言えない表情でへにゃりと眉を歪めた。彼女はほんの少し泣きそうな顔をしながらも、口を挟むことなく静かにオレの話を聞いていた。

「そんなこと、舜斗からも聞いてなかったよ……」
「んでよ、そんときに言われたこと今思い出したわ」

 こちらに丸い目を向けた名前は、興味半分、動揺半分といった表情をしながらほんの少し身を乗り出して「なあに?」と問うてきた。

「だいすきな姉ちゃんとミッチー選手が知り合って仲良くなって、そんでもってくっついたらいいのにな、だとよ」

 それは、なんてことのない「好きな人と好きな人をくっつかせたい」という子どもが想像しがちな純粋で軽い妄想の類に違いなかった。そうなったらいいと、思いついたことをただ言ってみただけだったのだろう。──けれど。

「オレらはその甥っ子くんの思惑通りにくっついちまったっつーわけだな」

 そう言ってニヤリと笑えば、困ったように目を細めた名前は俯き加減に視線を逸らし、小さな声で「そうだね」とゆっくりと瞬きをしながら答えた。短い相槌を返してきた彼女の表情のいちばん最初に滲んだものは、わかりやすすぎる気恥ずかしさ。しかし、オレの見当違いでなければ「うれしい」とか「しあわせ」だとか、そういうものが続いたように見えた。
 普段はああ言えばこう言ってくる彼女の、ふとした瞬間に見せるこういうかわいらしいところが愛しいと思う部分だったりする。
 押し寄せてきた感情を堪えきれず、こちらを覗き込んでいる名前の頭を撫でていると、彼女は不思議そうな表情で「どうしたの? なんで私みっちゃんに撫でられてるの?」と眉を顰めた。

「つーかよお、誕生日っていやあ子どもにとっちゃ一大イベントじゃねえか! よォし、この三井寿が一肌脱ぐしかねえようだな!」

 そう言いながら手で腿を打って立ち上がり、グッと握った拳でガッツポーズをつくって見せると、名前は更に怪訝そうな表情を強めて「え、っと……なにする気?」と静かな声で言った。彼女の顔にあからさまに浮かんでいる「不安」という二文字。それにはさすがに納得がいかない。

「んだそのツラは! ちなみに、まずは撫でくりまわすだろ? そんで……」
「ファンを弄ばないでください」
「ちげーよ! 叔父さんとして甥っ子をかわいがってやんの!」
「みっちゃんは舜斗の叔父さんじゃないでしょ」
「あ!? もうほぼ確で叔父さんだろが!」

 はぁ、とため息をつきながら「ぜんぜん参考にならなかったなあ……」と言い、部屋に引っ込んでいった名前の背中をじっとりと睨め付けたオレは、その時すでに心を決めていた。
 あの時、浮足立ちすぎていた己の心を諌め、初心忘れるべからずという重要なことを教えてくれたあの小学生に、忘れられないバースデーサプライズをキメてやりたい。頭に浮かんだ計画はすこぶるシンプルなものだが、オレにしか出来ないことに違いなかった。
 数日後、オレは風呂上がりのスキンケア中だった名前に向かって「これから未来の甥っ子へ送るバースデーサプライズ計画のプレゼンを行う!」と高らかに宣言した。
 そんなオレを見遣った彼女は、抑揚のない声で「なにを始める気なの……?」とあからさまに不安気であったが、オレはそんなことで折れるような男ではない。
 それを無視し、延べ数日に及ぶ幾度のプレゼンを重ねた結果、オレ考案サプライズバースデープランにはとうとう「承認」のハンコが押されることとなったのである。
 そして本日、三井寿プレゼンツ「誕生日パーティーをするからと名前ちゃんの家に招かれたら特別ゲストで大好きなソルバーンズの選手たちが来てくれたよ!」大作戦が決行される。
 主役である甥っ子を名前が迎えに行く前に、軽く打ち合わせをすべく宮城と深津を家に連れて来たら、彼女はその目を今まで見たことがないほどキラキラと輝かせ、すこぶる小さな声で「ほ、ほんものだあ……!」と感嘆の声を上げた。

「すごい、宮城さんと深津さんがうちにいる……! あ、あの、こないだのシーズンから見始めた新参ですけど、応援してます」
「あ、どもッス。そんで今日はお邪魔します」
「ありがとうございますピョン」
「みっちゃんの強引な計画の為にお忙しいところすみません。わざわざご足労いただき、本当に感謝しかないです……」

 ぺこぺこと頭を下げる名前を見遣るオレの中に沸々と沸いてきたのは、まあ当たり前に気分が良いとは言えない腑に落ちぬ感情だった。それに耐えきれなくなって「おい」と声を掛けると、彼女は一切悪びれる様子もなくキョトンとした表情で「ん? どうしたの?」とこちらを向いた。

「で、おまえは誰と住んでんだっけなあ? 言ってみろ」
「え……? みっちゃんと住んでますけど」
「オレもホンモノだろーがよ! プロバスケ選手! こいつらと同じ! プロ!」

 そんなやりとりを眺めながら堪えられなくなった様子の宮城が、ぶっと吹き出しながら「ッ、す、すんませ……! ンフッ」とか言って背を向け、ぶるぶると震え始めた。そして、そんな宮城を見ながら心底恥ずかしそうに「みっちゃんのせいで宮城さんに笑われちゃった、もう無理……」と顔を覆う名前。おい、どーゆーことだこのヤロウ。
 以降の無駄な詳細は省くが、そんな経緯があって今この場所に宮城と深津がいるというわけだ。はい、回想終了!

「ていうか、三井さんと名前さんの関係については、まだその甥っ子くんにバラしてないんスよね? いいの?」
「言ってねーしタイミング的にバラせねーけど、なんか聞かれたらあいつの仕事の関係で知り合ったっつー設定にしてる」
「粗だらけピョン、小学校中学年をナメるな」

 非協力的かつ辛辣すぎる罵倒を舌打ちでかき消すと、手元にあるスマートフォンがメッセージアプリによる通知を告げた。それを開けば、名前から「いまマンションのエントランス、もーちょっとで着くよ!」という文章が送られてきたところだった。

「おい、もう来んぞ! かくれろ!」

 ホントに上手くいくんスかね、とぼやいた宮城の後頭部を叩いてやると、ヤツは「いってーな!」と短く叫んだが、納得のいかない表情のまま打ち合わせ通りソファーの裏へと身を隠す。
 ドアの開くガチャリ、という音の後に続いたのは「おじゃまします!」という溌剌とした声だった。

「名前ちゃんち、すっげー久しぶり! 千夜ちゃんが結婚してからはじめてだ!」

 いっしょに住んでる人がむずかしい人って言ってたけど、今日は大丈夫なの? と続けられた言葉に「なんだと、オレのことをそんな風に言ってたのか!?」と飛び出していきたくなったのを必死に堪える。バレないための言い訳とはいえ、もうちょっと違う理由つけられただろ! ……ってのはまあ、あとで指摘して修正してもらうことにしよう。

「それはそれとして! ケーキとプレゼントも用意してあるからね!」
「えー、なんだろ? ……わかった! ミッチー選手の新しいユニフォームとか!?」
「さてなんでしょうね、とりあえず靴脱いで!」

 玄関で早々に盛り上がってしまっている会話に聞き耳をたてながら、隠れている宮城と深津に「そろそろ来んぞ」の目配せをする。少し目を離した隙に、深津は自身で用意したらしい鼻眼鏡を装着していた。
 キッチンスペースに隠れながら握りしめているクラッカーの紐に手を添えると、廊下を通過するぱたぱたという足音がこちらに近づいてきた。
 オレが発した「せーの!」という掛け声に合わせ、それぞれの隠れ場所から飛び出したオレたちは、手に持ったクラッカーを盛大に鳴らした。パン! という音が三つ弾けて、ほんのりと火薬の香りを伴って飛び出したカラーテープが宙を舞う。
 目の前に現れたオレたちの姿を交互に見やりながら、呆気に取られた様子で硬直している小学生男子。彼はやはり、あの時公園で交流した子どもに違いなかった。

「ハッピーバースデー舜斗! ……っておい、どうした? 生きてっか?」

 自分の頭の上にカラーテープがひらりと舞い落ちてきても気にせず、瞬きすらしない舜斗の頭に手をやり、しゃがみこんでその顔を覗き込む。
 ソファーの裏から出てきた宮城と、同じくのそのそとやってきた鼻眼鏡の変な男を見上げた舜斗は、最後にオレに視線を合わせると「そ、そっくりさん……?」と震える声を発した。

「ちげーよ! ちゃんと見ろ、オレらのこと知ってんだろ? 会ったことあるよな!?」

 そう言いながら立てた親指をビッと自身に向けると、舜斗は強ばった表情をそのままに、小さく小刻みに頷いた。

「ミッチー選手と、宮城選手と、へんなメガネは深津選手……?」
「あたり! 誕生日おめでと、舜斗くん」
「おめでとう、お祝いしにきたピョン」

 家に入ってきた時の元気はどこへやら、呆気に取られたままひどく静かな調子で「ほんものだ……」と呟いた舜斗。その背後でうんうんと頷いている名前は「そりゃそうなるよねぇ」とぼそり言いながら苦笑している。
 おまえも宮城と深津を連れてきた時、思いっきり同じリアクションしてたけどな。

「え、でもなんで? ここ、名前ちゃんちだよね……? いつの間にみんなと知り合いになったの……!?」
「あ、えっとー……そう! 実はカメラの仕事でね! たまたまソルバーンズと関わることがあって」

 オレの目から見ても、名前はこれ以上ないってぐらいに取り繕うのが下手くそだった。が、その違和感すらサプライズの前では薄まりまくっていたようで、舜斗は「そうなんだ……」と相も変わらず呆けた調子で流してくれた。

「ってのが、おまえの大好きな名前ねーちゃんからの誕生日プレゼントだったわけだが……どーだ?」

 うれしかったか? とオレに覗き込まれた舜斗は、大の男三人、プラス大好きなお姉ちゃんに注目されていることに気づき、わかりやすくマゴマゴしている。しかし彼は、きゅっと口を結んで表情を引き締めると、こくんと大きくひとつ頷いて見せた。

「すんっ……ごくうれしい! 名前ちゃん、ミッチー選手、宮城選手、深津選手、ありがとうございます!」

 ようやく見せてくれた笑顔に、うれしいよりもほっとする気持ちの方が大きかった。人間というものは、驚きが大きすぎると通常モードに戻るまでめちゃくちゃ時間がかかってしまうものなのだな、と冷静に分析しながら、オレの背後にいる宮城と深津に視線を向け、小さな声で「あんがとな」と告げる。

「てことは、ミッチー選手と名前ちゃんはもうなかよしなんですか!?」

 どうやら、驚いて呆けるターンを超えた舜斗は、もうほとんど通常モードに戻りつつあるらしい。順応がはやく、興奮状態にある小学生男子を前に、今度はオレと名前がたじろき、動揺する番だった。

「お、おう! そりゃもうバッチリ仲良しだぜ! な!?」

 そう言いながら名前に話を振ると、彼女は「えっ!?」と虚をつかれたような声を上げた。それから助けを求めるように宮城と深津に視線をやったあと、それをそのままふよふよと泳がせて「えー、えっとぉ」と完全にアウトなレベルで口ごもってしまった。

「そ、そこまでではないかな! 知り合いだからね、知り合い!」
「あ!? んだとコラ! 知り合いよりはもっとこう……」
「みっちゃ……じゃなかった、み、三井さん! ちがうでしょ! ね!」
「……! ンンッ、知り合い、そうか、そうだな! そうでした!」

 お互いにぎこちなさすぎる笑顔を浮かべ「ですよねえ」「だなあ」とか言いながら頭に手を当ててヘラヘラして見せる。うっかり熱くなり、出掛かってしまった──否、認めればほとんど出てしまっていた本心によって、背中をたらりと冷汗が伝う。
 なんとも言えない表情で視線を交わし合うオレたちを見据えていた宮城は、くるりと見事なターンで後ろを向いたかと思うと、笑いを堪えながら背中を震わせ始める。おい、こいつこうなっちまうの早くも本日二度目だぞ。
 この空間で行われるやりとりをずっと静観していた深津が、鼻眼鏡を装着したままというトンチキな姿で舜斗の横にずい、立ったのはそんな時だった。

「大丈夫、三井と名前さんはちゃんと仲良しピョン」
「ほんとですか?」
「なんなら結婚するかもしれないピョン」
「え!? ケッコン!?」

 ゲエッホ! と我ながら下品にむせこんでしまったと自覚している横で、名前がヒュッ……と息をのんだ。
 いや、オレはもちろんそのつもりだし、彼女にも既にそのつもりで付き合っていこうとは伝えてある。が、問題はそこではない。
 そもそも、この甥っ子にはオレたちがわけあって一緒に暮らしていることも、それを経て現在は付き合っているということも隠している。そしてそれは、宮城にも深津にもしっかりと共有したはずだ。

「冗談ピョン」
「なんだ、そっかあ」

 みぞおちがヒンヤリして、密やかに名前と視線を交わす。胸のあたりを押さえながらあからさまに安堵した様子の彼女を確認したオレが、いま一番したいこと。それは「ごめんピョン」とか言いながら微かに、ほんの少しだけ愉快そうに口元を歪めているこの男のことを、もうとにかく思いっきり殴りたい。ただそれだけだ。
 この場で思いっきりぶん殴ることは大人なので堪えるとして、せめてその背中ぐらい軽めに小突いてやったってバチは当たらないはずだ。そう思いながら拳を突き出したら、ヤツは背後に目がついているのかと疑うほど華麗にその攻撃を避けた。なんだこいつ、ちょっと得意げな雰囲気出しやがって!
 そこでふと思う。いつか結婚したいと思っていることは本当だし、というかそうなるのだし、ここで思いっきり否定してしまうのも違う気がする。

「……でもまあ? その線も無きにしもあらずっつーか、ないこともない、むしろあるんじゃね? みたいな? ……どうする? オレら、ケッコンすっか?」
「っ、バカ! 悪ノリしないの! はい、もう変な会話おしまい!」
 
 そう言った名前は、あからさまにイライラしながらオレの背中をバシン! と叩いてきた。些か強めだったそれを甘んじて受けながらも「ってえな!」と反論しなかったのにはわけがある。
 なにって、彼女の耳がほんのりと紅潮していることに気づいてしまったからだ。そして、そんな些細なことで良い気分になっているオレ。さすがに、こればっかりは自分のことを単純であると認めざるをえない。

「ほーら、今日は舜斗のお誕生日会だよ!」

 妙な雰囲気を払拭するためか、ぱたぱたと慌ただしくキッチンへ駆け込んだ名前は、冷蔵庫に忍ばせていたケーキを取り出して舜斗の目の前に差し出した。
 わあ、とその顔を華やがせて名前を見上げ、それからオレへ、宮城と深津へと視線を動かし、ぱちくりと瞬きをした舜斗の笑顔は、そりゃあもう眩しいばかりだ。

「本当にありがとう、こんなことってあるんだね!」

 目をキラキラさせている舜斗の頭を撫でくりまわして「名前ねーちゃんに感謝しろよ?」と言ったら、こくんと頷いた舜斗は「うん! ……でも、一個だけいい?」と興奮を抑えた静かな調子で声を発した。

「ミッチー選手と名前ちゃんがケッコンするって、ほんとだったらよかったのになあって、すっごく思っちゃった」

 ぼそりと呟いた舜斗の発言を聞いた宮城は、ちらりとオレと名前の様子を窺った数秒後、堪えきれずに盛大に吹き出していた。


[*前] | [次#]

- ナノ -