仄暗き水の底から2



「うわぁっ!ぐっぅ!!」
 宙を舞った遊馬は硬い床にたたきつけられるのを覚悟したが、思いの他柔らかいものに背中からぶつかった。
 それでも、殺しきれなかった衝撃に息が詰まる。
 思わず閉じてしまった目を開いて、弾力のあるその物体がソファだとわかる。
 すばやく身体を起こした遊馬は、薄暗い部屋の中を見回した。
 入り口には陸王が立ちはだかり、L字型に配置されたソファとローテーブル、それに今は唯一の光源であるテレビ。
 逃げ道は入り口のドアひとつしかない。
 遊馬の背をつめたい汗が流れた。それは暴力への恐怖に他ならない。
 けれど、ここへ来る時に、一発二発殴られるくらいのことは覚悟してきた。
 真っ直ぐに陸王を見上げ、次の動きを待つ。
 ソファにしろ、テーブルにしろ、回り込まなければ遊馬に手は届かない。逃げ場所が陸王の背後にある以上、陸王が動くのに合わせて脇をすり抜けるしか活路はなかった。
 テレビからの光は、映る画像によってめまぐるしく光度を変える。
 その中で、遊馬の瞳は、明確な意思の力で輝きを失わない。
 恐れないという、決意の色に、陸王は片眉をピクリと上げ、小さく舌打ちした。
 デュエリストでもある陸王にとって、暴力とはデュエルの補助的なもの、脅しとして一発入れ恐怖をあおれれば十分なものだった。
 最小限の力で最大限の収穫、それが陸王のポリシーであった。
 しかし、目の前のガキは、先ほど腹に一撃くらっているというのに、一向に心が折れる気配がない。
 面倒な事だ。
 この界隈は陸王海王の縄張りだ、その中でもここは中心になる場所、そんなところまでホイホイ入ってこられて、何もしないで返したのでは示しがつかない。
 叩きのめすならば、二度と立ち向かってこないように、けれどそれはリスクより実入りがよいものでなければならない。
 陸王は思案しながら、値踏みするように遊馬を見た。
 どうみても子供、しかも男。女ならばまだ他の脅しがあるのだが、そこまで考えて陸王は口角を持ち上げてにやりと笑う。
「お前、甘いんだよ、考えが。」
 陸王はテーブルをひと蹴りで飛び越し、虚をつかれた呆然と見上げる遊馬のタイを掴みソファに押し付けた。
「なにすんだよ!」
 声を荒げながら手を外そうとする遊馬の細い手首を逆に捕らえ、まとめて片手で掴んでソファに寝るように身体を引き倒す。更に足をまたいで体重をかけてやれば、完全に遊馬の動きは封じられた。
 空いた片手でタイを解き、ボタンを外していくと、流石に不穏な空気を察したのか遊馬はがむしゃらに暴れだした。
 とはいえ、今現在満足に動かせるのは指先と頭くらいしかない。
 なんとか手を外そうと陸王の腕に爪を立て、激しく頭を振るも、程なく全てのボタンが外され、素肌が外気に触れた。
「放せ!放せったら!!」
「何してんだ、兄ちゃん。」
 人の声に陸王は顔を上げ、ドアの前に立っていた弟を顎をしゃくって招いた。
「丁度いいところに来た、腕押さえとけ。」
 遊馬の頭の傍まで歩いてきた海王は、陸王の身体の下にいる小柄な少年にチラリと視線を投げ、ため息をつく。
「物好きもいいとこだぜ・・・」
 はだけられ素肌の覗く胸元を見れば、兄がどんな事をしようとしているのかは想像がつく。だが、胸もなければ穴もない、その上余計なものがついている男を犯して何が楽しいと言うのか。
 しかし状況を見極めようと海王を見上げる遊馬の容貌をじっくり見てみると、その気持ちも解る気がした。
 間違っても女に見えるような顔立ちではない。
 だがこぼれるほどに見開かれた瞳はこの薄明かりの中で深い紅になり、縁取る睫の影は濃い。引き結ばれた唇はうっすらと赤く、男になりきらぬ細い肩との間を手をかけたら折れそうなほどに細い首が繋ぐ。
 子供と青年の間の、何もかもがあやふやな年齢だからこそもつ魅力が、遊馬にはあった。
「・・・まあ、ありかもな。」
 海王はそう呟いて、遊馬の両腕を押さえつけた。
 いよいよ追い詰められた遊馬の顔に、絶望の色が浮かぶのを、陸王は笑みを深くして見下ろす。
 本当に絶望するのはこれからだ。
 ただでさえ遊馬の抵抗は陸王にとってはそよ風程度に軽いものだが、暴れられば遣りにくいものだ。しかし、両腕を海王に押さえつけられた状況ではろくな抵抗もできない。
 ベルトを外し、ジッパーをおろすと、下着ごと下半身を覆うものを引き剥がした。
 途中邪魔な靴も脱がせて放る。
「服なんか破ればいいんじゃね?」
 むしろ丁寧といえる調子で脱がせていく様子に、海王はいぶかしげに訊ねた。
「こいつも、帰って言い訳はしたくないだろうよ。」
 くつくつと笑う陸王を見て、ああ、手加減する気はないわけね、と海王は理解した。
 抵抗の動きも、精一杯の罵声も意味がなく、二人の男の手によって程なく遊馬は一糸まとわぬ姿にされた。
 

 こうして、宴の支度は整った。

next



何度も言うが、手段のために目的を選ばない、それがエロ。
エロもスキですが、バトルも好きです。
文ではどうしてもスピード感が出ないのが切ないところ。
(110630)


back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -