Kiss of Fire 前編
 

 バイクに乗りたいと言ったのは遊馬だった。
 デュエルデュエルとうるさいのを断っていたら、アプローチの方向を変えたようだった。
 遊馬の考えていそうな事はわかる。
 居場所がないと言った凌牙を、そこから連れ出した手前、凌牙の居場所になろうと空回っているのだ。
 仲間?友達?
 幾度か抱いてやったのに、馬鹿な頭は凌牙の求めるものを一向に理解しない。
 居場所が欲しくて男を抱くヤツがいるか?
 居場所を与えたくて身体を差し出すヤツがいるのか?
 そう考えて、遊馬ならやりかねないと思った。
 事実、性質の悪いやつ等のたまり場に、考えなしで飛び込んでくるようなヤツなのだから。
 
 仲間? ならば順位は?

 海までの道、腰に回された手が触れた場所が気になって仕方がなかった。
 スピードに興奮したのか、時折歓声のような声が上がったが、吹き抜ける風のせいでなんと言ってるのかまではわからない。当然のように無視をして走った。
 放課後の夕暮れ時に出たせいで、埠頭についた頃にはすっかり日は落ちていた。
 人気のない倉庫街にはところどころ街灯はあるものの、全体的に薄暗い。
 少し休んだら帰るつもりだった。
 見かけた自販でドリンクを買う。
 ひとつ買ってから、もうひとつ買うときに、それはちょっとしたいたずら心だったのだ。
 凌牙の放った缶を危なげなく受け止めて、サンキューと軽く返して遊馬は一口飲んだ。
「んー?!なんだこれ酒じゃん!」
 何で買えてんの?などと目を見開く遊馬に、自販のID認証をどうにかできる程度で驚かれてもなと思う。
「換えるか?」
 凌牙の飲んでいるのはただの炭酸飲料、手を伸ばしかけて遊馬はぴたりと手を止めた。
「って、それじゃ帰り飲酒運転じゃねぇかよ!」
「飲まないなら捨てればいいじゃねぇか。」
 そんなものも飲めないのかと、バカにされた気分になったのだろうか、遊馬は「これでいい。」と言って、一気に缶を煽った。
 別に飲んでも飲まなくても、いっそ本当に交換してやってもよかったのだ。
 ベンチ代わりに腰を降ろした何かのケースの上で、遊馬の頭がゆらゆら揺れる。
 それほど度数が高い酒でもなかったが、飲酒経験のないであろう遊馬にはきつかったようだ。
「お前それで帰り乗れんのかよ。」
「・・・あ?」
 声をかけてみたが、案の定、返答がうつろだ。
 顔を覗き込むと、にへらと締りの悪い顔で笑う。
 誘っているのかよ、と囁くのは、誘われた言い訳だ。
 薄く開いた唇に自分のものを重ねた。
 湿った音を立てる口付けは熱くとろけて、甘い。
 少し遠くで、シーズンには少し早い花火の音が、立て続けに響いた。
「はっ・・・んっ・・・」
 呼吸に、アルコールの香りが混じる。
 首筋に触れた指に、早まる脈を感じた。
 暗がりでもそれとわかるほどに、耳まで赤く染まって、酒のせいなのか、もっと違う原因なのか、判別はできない。
「なぁ、俺は、何番目?」
 覗き込んだ瞳は、遠く街の明かりを弾いて、宝石のように煌いていた。
「なに、言って・・・」
 戸惑いを含む遊馬の声に、本当にわからないのだろうとは思う。
 赤いタイを解き、胸元のボタンをひとつずつはずしてやる。
 暑い日が続いたせいで、遊馬はアンダーシャツを着ていない。
 素肌に指を這わすと、小さな声と共に遊馬の身体が揺れた。
「しゃー、く・・・ここで、すんのかよ。」
「たまには外も、面白いだろ。」
 面白くもなさそうに言う凌牙の声に、遊馬はここが屋根も壁もない野外だと思い出すが、誰かが来たらなどという羞恥は沸いてこなかった。
 ふわふわとした現実感の薄い感覚の中で、吹き抜ける風に揺らされる服の感触と、少し冷たい凌牙の指先だけが鮮明で、残りは身体の熱さだけだ。
 ベルトがはずされ、ジッパーを下ろされても、現実感が薄い。
 膨らみかけたものを軽く擦られて、思わず凌牙の服にしがみついた。


 何番目? 


 凌牙の言葉が遊馬の頭の中をグルグル回った。
 そんなことは答えられない。
 わからない。

 けれど、遊馬も凌牙に聞いてみたかった。

 
 お前の中に、順位はあるの?
 
 
後編



面白いネタをいただいたので突発に書いてみた。
ハートランドに海があるのかとても謎www
ついでにあのバイクに2人で乗れるのか謎・・・というかメットを遊馬に譲るシャークを想像してちょっと笑ったわけです。


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