Kiss of Fire 後編
 


 とても放ってなんか置けなかった。
 凌牙とのデュエルは、遊馬にとってとても楽しいものだったのに、凌牙にとってはそうではなかったことが辛かった。
 自分が凌牙の居場所を奪ってしまったのだとしたら、それを返したかった。いや、今までいた場所だって、凌牙にふさわしい場所とは思えない。
 もっと明るく輝いた場所が凌牙にはふさわしいのだと思う。
 手を伸ばしたのは遊馬で、答えたのは凌牙だった。
 今はまだ、凌牙を迎え入れるのは遊馬一人。

 一人、だからだろう?

 初めての夜は嵐のようだった。
 欲望を吐き出すだけの行為とは違う。
 飢えているのは心なのだ。
 思うままにむさぼる凌牙に翻弄されて意識を手放した。
 目が覚めた時、傷ついた顔をしているのは凌牙のほうだった。
 だから、仕方ないと思ってしまった。
「すまない。」と言った凌牙に「俺は平気。」と返した。
 あれから、幾度か抱かれた。
 未だに遊馬には、この関係も、この行為のたどり着く場所もわからなかった。
 この、行為。
 最も深い場所まで交わる、この、行為。
 いつの間にかズボンは膝のあたりまで下ろされ、湿った指が、ぬるりと後ろに入る。
「はっ・・・あ・・・」
 今までは痛みと抵抗を感じた異物の進入が、可笑しいくらいにスムースだった。
「手、つけよ。」
 凌牙に促されて、遊馬は座っていたケースに手をついて凌牙に背を向け、尻を後ろに突き出すような体勢になる。
「熱いな。」
 んーとかあーとかあいまいな返事が返るのを聞きながら、凌牙は遊馬の中を探った。
 熱く溶けた肉が指に絡みつく。
 いつもならば硬く進入を拒む入り口も、今日は柔軟に広がる。
 当たり前の事なのだ。遊馬は責任感や親愛、もしかしたら同情の意味も含めた感情で凌牙に身体を許しているのであって、本当に心から求めてこの行為に及んでいるわけではない。
 進入を拒むのは隠された拒絶の心で、抵抗をしないのは遊馬の意志なのだと、凌牙は思っていた。
 今の遊馬が、凌牙を受け入れているように見えるのは、全てアルコールのせいだ。
「ひぃっぁぁ・・・んぁああ!!」
 指を増やして深くえぐれば、甲高い声が上がる。
 かき混ぜて、突き上げてやれば、立て続けに上がる嬌声の合間に、シャークと凌牙の通称を呼ぶ声が混じった。
「も・・・俺、ダメだっ・・・はぅ、んんっ」
 カタカタと遊馬の膝が震える。
 凌牙の手を掴んで抜き取ろうとするのは、指だけでイってしまいそうになるからだ。
「声、でけぇよ、あっちに人居るんだ、聞こえたらどうする?」
 不自由な体勢で振り返る遊馬の頬を、瞳からあふれ出たものが濡らしている。
 凌牙の言葉に唇をかみ締め、息をつめるが、荒くなった呼吸は簡単に唇から溢れた。
「やっ・・・ああああ!」
 抜き取られた指の代わりに、大きな質量を持ったものが埋め込まれるのがわかった。
 痛みはなく、それどころか突き入れられるだけで、ゾクゾクと背中を這い上がるものがある。抜き取られていく時には、逃すまいとするかのように自然に力が入り、内腿に痙攣のような震えが走った。
「しゃー、くぅ・・・」
 たまらず、遊馬は自分を苛む人を呼んだ。
 その声は甘くかすれて、遊馬の飲み込まれた快感の色を深く映す。
「もっとか?」
 凌牙の言葉に悩んだのは一瞬で、自分から求める恥ずかしさも忘れて、遊馬は首を縦に振った。
「んっああああ!・・・はぁああんっ、ああっあっ」
 望んだ刺激はすぐに与えられた。
 リズミカルな凌牙の動きに合わせて、嬌声が喉を振るわせる。
 いつになく高く上がる声に、自然に凌牙の動きが激しくなるのを、遊馬は知らない。 揺さぶられた視界はクラクラと歪み、今自分がどんな姿でどんな声をあげているのかなど、理解できない。
「や、あっああ―――――!!」
 ひときわ高く上がった声は、鳥の声のようにも聞こえた。
 

 白く霞んだ世界から戻った遊馬は、いつのまにか乱れた服がきちんと着せられているのに気付いた。
 今までの事は夢だったのだろうかとも思ったが、あいまいな現実の中で、身体の奥にじんじんと残る余韻が、夢ではなかったのだと教えてくれる。
 そうしてやっと、凌牙の腕の中に上半身を預けている自分を見つける。
 見下ろす瞳は、やはりどこか罪悪感を含んでいるように見えた。
 本当なら、凌牙が感じる必要のない罪の意識なのだと、遊馬は知っている。
 不意に悲しくなり、遊馬は凌牙の頬に手を伸ばした。
 夜の空気に晒されたためなのか、それとも先ほどまでの熱はもうどこかへ言ってしまったのか、凌牙の頬は冷たい。
「・・・しゃーくぅ・・・おれ、いつ・・・じゃ、なくなるんだ・・・」
 凌牙が遊馬の中での順序を聞くのは、今現在凌牙の一番が遊馬だからだとわかる。
 いつ一番じゃなくなるんだろう。
「何言ってるんだ?」
「・・・早く、つくれ、よ・・・もっと、大事な・・・ひと・・・」
 眉根を寄せる凌牙をまぶしげに見上げながら、遊馬はとろとろと眠りの淵へ流れていく意識をかき集めながらそう言った。
 凌牙には明るい場所がよく似合う。
 明るい陽だまりの中で、いつか凌牙はたくさんの仲間に囲まれるだろう。
 その時、きっと遊馬は凌牙の一番にはなれないのだ。

 今だから、そこに遊馬しかいないからこその、一番。

 だから、言わない。 
 


 君が一番、好き。
 



ようやく凌遊の道筋が固まった気がします。

(110626)


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