1万打記念企画・彩霞さんへ捧ぐ

※企画用品ではありますが、凌遊メインストーリーと内容かぶってしまいましたので、合体しました。



仄暗き水の底から1



 夕日には、人を感傷的にさせると同時に、どこか背中を押すものがあるようだ。
 一昔前の青春ドラマに夕日に向かって叫んだり走ったりするのは、そういうことなのかもしれない。
「先に帰ってくれ。」
 3人での帰り道、遊馬は立ち止まってそう言った。
「遊馬!もうやめなよ!」
「いや、ちょっと一人で考えたいだけ。」
 危ないからと心配する幼馴染に、手を振って、夕日の照らす堤防に座った。
 遊馬が動こうとしないのを見て、鉄夫は大きくため息をつく。
「それなら、いいけどよ。」
 遊馬の複雑な心境を察するものがあったのか、渋る小鳥を促して、鉄夫は遊馬に背を向け歩き出した。
 小さくなっていく二人が、堤防を降りていくと完全に見えなくなる。
「ゴメン、小鳥、鉄夫。やっぱ放っておけない。」
 誰に聞かせるわけでもなく、謝罪の言葉を呟いて、遊馬は立ち上がると、もと来た道を駆け出した。
 光の灯り始める町を駆け抜けて、薄暗い路地へ入る。
 潰れたゲームセンターが不良たちのたまり場だった。
 建物の前に凌牙のバイクがまだあるのが確認できたが、少し前に来たときより、バイクの数が増えている。
 凌牙に会う前にまた不良たちに見つかると面倒だ。
 遊馬は少し思案してから、ゲームセンターと隣の建物の間の路地に滑り込んだ。50センチほどしかない狭い路地だが、小柄な遊馬には楽に通れる。
 建物の前面には窓はなかったが、こういった商業施設なら非常階段とか裏に窓とかはあるはずだ。
 しばらく進むと、宙に浮いたように中途半端な位置に非常階段らしきものを見つけた。
 外壁に張り付くように作られたお情けのような階段は、本当の非常時以外使用する気にもなれないような粗末なものだ。地面に近い場所に階段がないのは、どうやら最初からそういう作りらしかった。
 遊馬は、隣ビルの壁を足がかりに階段によじ登った。
 金属で作られた階段は塗装がボロボロにはげ、さびだらけで、掴んだ手を見ると黒ずんだ茶色のさびが手のひらにたくさんついた。
 幾度か足元の金属板を蹴って、まだ使用に耐える事を確認すると、足音をなるべく立てないように、遊馬は階段を登った。
 建物は3階建てで、2階の扉を開けようと思ったが鍵がかかっているのか開かず、遊馬は3階へ向かった、「開け!」と念じながらノブをひねると、ギっと耳障りな音を立てて扉が開く。
 廊下は、ゲームセンターの備品だっただろうよくわからないものがところどころに転がり、とても歩きやすいとは言えなかった。
 シャークはどこにいるんだろうと考えてから、居場所の予測もまったくつかないのに、こんな危ないやつ等の領域に入り込んでしまったのだと背筋が寒くなる。
『遊馬!』
「おい。」
 アストラルの声と、低い男の声はほとんど同時だった。
 振り返った瞬間に腹に鈍い衝撃が走る。
「ぐっあ・・・」
 殴られたのだと理解する頃には、前に折れた身体は、支えられるように男の腕の中だった。
 腕と顎を掴まれ、上向かせられる。
「何度も言わせんなよ、ここは俺たちの縄張りだ。ちょろちょろしてんじゃねぇ。」
 陸王、と呼ばれた不良たちのリーダーの顔がそこにある。
「はっ放せよ!!」
「わかってねぇなお前。本当に馬鹿なヤツだぜ。」
 太い指がギリギリと顎に食い込み、遊馬はうめき声以外の声を出せなくなる。
 がむしゃらに暴れてみたところで、男の腕は丸太のようにがっしりとしていて、びくともしなかった。
 陸王が大またで歩くと、つま先だけをかろうじて地面につけたまま、遊馬はなすすべもなく引きずられていく。
 やがて、明かりの漏れるドアの前に来ると、遊馬は部屋の中に放り投げられた。

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遊馬の初体験は凌牙にあげたいかなーと思っていたんですが、ぐるぐる考えているうちに、不良兄弟に奪われているほうが美味しいなという結論に達してしまい、メインとリクがかぶっちゃいました。
書く予定のリクは避けていたんですが、もう出会い頭の事故のような気持ちで許していただけたら幸いです。
(110628)


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