流星群の夜に 3
「遊馬、今日泊まるんだろう?」
「え?!はい!」
思考の海に沈んでいたところに突然声をかけられて、遊馬の声は不自然に上ずった。
それだけで赤面しそうになるのをなんとか抑えて、遊馬は遊星を見上げた。
「夜になってから風呂に入ったら湯冷めするだろうし、先に入っておいたほうがいい。」
「あ・・・そうですね。」
昼過ぎに出てきたから、まだ本当に太陽は幾分傾いたくらいで、こんな時間に入浴するなんて、変な感じがする。
しかし、本当に流星観測をするつもりなら遊星の指摘はもっともな事で、断る理由はなかった。
遊馬は持参したバックの中から寝巻きと換えの下着を出して、遊星の案内に従いバスルームへ向かった。
タオルを出して遊馬に渡すと、遊星はリビングに戻った。
しばらくして水音がしだすと、遊星はソファに足を投げ出して横になった。
本当は昨日遅かったどころではない。
ベッドに入ったもののほとんど眠れなかった。
本当に、人の気もしらないで軽いことを言ってくれる。
『流星群が見たいけど、うちからは星がよく見えなくて、そっちの屋上で見てもいいですか?
それで、帰れなくなっちゃうだろうから、できれば泊まらせてもらえたら。』
あのメールを見たときに、どれだけ驚いたか、遊馬は知らない。
「まったく・・・人の気も知らないで・・・」
くるくると色合いを変えるガーネットのような瞳を思い出す。
最初は、本当に弟のようだと思ったのだ。
だが、無邪気に自分を慕う遊馬に息苦しさを感じたのはいつだっただろうか?
その、好意も、好意の意味も知っていたけれど・・・。
遊馬の『好き』は恋愛の好きじゃない。
たとえるなら肉親へ向けるような、そういう、特別ではあるが恋ではない感情。
遊馬は、きっと初めての恋なのだろう。
だから、それが恋未満なのだとわかっていなかった。
彼に対してフェアでいたいと思ったからこそ、自分の思いは告げなかったのに。
彼から告白などしてしまうから、予定が狂った。
ずるい大人の心が、絡めとった。
恋は、勘違いから生まれる。
最初は恋ではないのかもしれない。
だが、「あの二人は怪しい」と周囲が噂するような、そんなものだけでも簡単に生まれてしまう。
遊馬の恋が恋でなくても、遊星が受け入れることで、遊馬は初めて本当の恋に落ちるのだ。
今はまだ幼い遊馬だが、子供はすぐに成長する。
あと5年もすれば遊馬は18、遊星は23決してつりあわない年齢差ではない。しかしそれまで待っていたとして、彼が本当の恋に出会ってしまわないとも限らない。その前に余所見をしないように、腕の中に囲っておこうと思ったのだ。
だからといって今すぐ子供をどうこうするのは気が引ける。
遊馬の身体は細くて、小さくて、とても大人の欲望を全て受け止められるようには思えなかった。
本当は、何度思い浮かべたかわからない。
遊星の想像の中での遊馬はとてもみだらで、柔らかくほぐれた身体は、遊星の全てを飲み込んで・・・
「ッチ・・・」
舌打ちして、身体を起こす。
できるわけがない。
傷つけたくて付き合っているわけではないのだ。
大切にしたいと思っているのに、子供の無邪気さで遊馬は擦り寄ってくる。
どこまで理性が持つだろうか。
「遊星さん・・・」
遊馬の声に顔を上げて、遊星はそこで固まった。
バスルームから出てきた遊馬は肩にかけたバスタオルを胸の前で合わせていた。大判のバスタオルは遊馬の腿のあたりまでを覆っていたが、その下はむき出しの足だ。
「なに・・・を・・・」
冷静になろうと努めていたところに、このカウンターパンチはけっこうな威力だ。
遊馬はフローリングの床を素足のままでぺたぺたと歩いてくると、遊星に視線を合わせるようにかがんだ。
湿った肌から馴染んだボディソープの香りが立ち上り、乾ききっていない髪はいつもよりつややかだった。
「俺、今日は星を見に来たんじゃないんです。」
遊馬は遊星の肩に手を置くと、ソファに押し倒すように体重をかけ、唇を合わせた。
触れるだけの軽いキス。
抑えていた手が離れたために湿った重たい音を立てて、バスタオルは床に落ちた。
「好きです。だから・・・」
一糸まとわぬ姿で、精一杯の誘いの言葉を吐きながら、遊馬の声は、震えていた。
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丁寧語遊馬とか別人すぎてどうしていいかわからないわけです。
(110618)
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