流星群の夜に 2
一階は作業場やガレージになっている。
ほの暗い玄関で靴を脱ぐと遊馬は階段を登った。もちろん、靴はしっかりとそろえておく。
扉を開けると、香ばしいような香りが遊馬を包んだ。
「よく来たな。」
そう言って、小さな微笑を浮かべる、彼、不動遊星が遊馬の恋人だった。
勧められるままにソファに腰を降ろすと、遊馬の前にはミルクのグラスが置かれる。
「あれ?遊星さんは今日はコーヒー?」
来客にミルクを勧めるなんて子ども扱いされている、と最初は思ったけれど、単に自分が好きだから出しているだけだと知ってからは違和感がなかったが、今日は遊星だけコーヒーだ。
「ああ、昨日ちょっと遅くて。」
眠気覚ましだと言ってもう一度笑う。
長い足をさりげなく組んで、ゆったりとマグカップを口に運ぶ姿を、遊馬はどこか遠いものを見る目で見つめた。
遊星との出会いは本当に偶然で、彼のデュエルの鮮やかさに魅せられたと思ったときには追いかけていた。
住所を聞いて、一戦あいさつのようなデュエルをした。
もちろんボロボロに負けて、でもまた遊びにおいでと言ってくれたのだ。
放課後に何度も通って、そのうち、学校の友達とは違う感情で好きだと気付いたのだ。
彼一人だけが特別。
これが恋なのだと思った。
自覚をしたら思いをとめられることはできない。
思い切って、「好きです」と言った。
遊星はなんだか驚いた顔をして「俺もだよ」と返した。
傍目には完璧なカップル完成の構図だろうが、遊馬は悲しくなった。
遊星にとって遊馬は、友人と言うよりも弟のような、もしくはできの悪い教え子のような、そんな存在なのだろう。
そうでなければ、遊星も好きなどと、ありえない。
最初から振られるつもりで告白したのだから。
結果は振られるまでも行かない、同じ舞台にすら立てないということなのか。
呆然と見上げる遊馬に何か気付いたのか、遊星は遊馬をひょいと抱き上げた。
目の前に、ブルーバイオレットの瞳が二つ。
普段は遊馬の目線が胸の位置に来るほどの身長差があるため、これほど間近に遊星の瞳を見たことはなかった。
「遊馬が何を勘違いしているのか知らないけど。」
「え?」
「せめてあと3年は待とうと思ってたんだぜ?」
「なに・・・」
遊馬が疑問を重ねるよりも前に、二人の唇が重なった。
それから二人は恋人として付き合うようになったのだ。
遊馬は再びマグカップを揺らす遊星をちらりと見た。
今日、遊馬には下心があった。
付き合うようになったといっても、遊星がするのは軽いキスや抱きしめるといった程度のもの。最初はそれだけで有頂天になっていた遊馬だが、だんだんと不安に感じてきた。
性の、衝動を知るようになってからは特に。
遊星の、エンジニアらしく男らしい手は、同時にデュエリストとしてのしなやかな動きを見せる。
あの手に、触れられたいと思う。
同性を好きになってしまったとわかってから、男同士のやりかたをネットで仕入れた。
自分が遊星を抱くなどと想像の範疇を超えるから、自分は抱かれる側になるのだろうと思う。男としてのプライド的には抵抗があるが、相手が遊星だと思うと、それでもいい気がした。
それほどの魅力と価値のある人だった。
彼の手を、声を、深い夜の手前の空のような瞳を思い出して、身体にわだかまる熱を吐き出した。
何度も。
冷たいシーツに背中を落として、吐き出したばかりの熱い雫を拭き取ると、何故、彼は自分の素肌に触れてくれないのかと思う。
求めるのは恥ずかしい。
相手が女だったら迷わなかっただろうが、相手も男だから余計に。
けれど、遊馬がこうして想うように、遊星も遊馬に触れたいと狂おしく想う夜はあるのだろうか?
ない、んじゃないかと、思ってしまう。
自分は男で、いくら彼も好きだと言ってくれたからと言って、欲情の対象になれるようには思えなかった。
結局のところ、自分にあるものといえば、遊星のことが好きだというこの想い位で、他に彼に差し出せるものなど何もなかった。
だから、今日は、誘うのだと、決めていた。
next
がんばれ遊馬きゅん。
歴代主人公の力関係と遊星のイケメン度を掛け合わせると、遊馬はこれくらいホレ込んでいるだろうなと容易に想像できます。
(110617)
back