Phantom Pain 前編
なくなってしまった腕が、足が、そこにあるように痛む。
ならば、なくなってしまった心でも痛む事はあるだろう。
君が僕を救ってくれた。
僕の痛みを取り除いてくれた。
痛み続けるものを切り取って捨てた。
僕が選び、君が行い。
外科手術のようなデュエルの果てに、僕は僕の中に隠れた僕を失った。
死んでしまった僕は、幽霊となって現れる。
* * *
「・・・ぅっ・・・ふぅ・・・んんっ・・・」
暗い室内に、熱く切れ切れの吐息が響くのを、遊馬はどこか他人事のように聞いていた。
フローリングに身体を横たえた姿勢からでは、多くのものは見えない。
窓の外に視線を向ければ、空にかかる雲が町の光を反射して、ぼんやりと光っているのが見えた。
四角い窓枠の中を、低空を飛ぶ飛行機のライトがチカチカと瞬きながら行過ぎていく。
冷たかった床は、頬をこすりつけたせいで生暖かくなっていた。
それでも、身体の方が何倍も熱い。
遊馬はその熱を逃がそうと身じろぐが、逆に新たな熱を生み出す結果となり、大きく身体を震わせた。
「遊馬・・・そろそろ、降参する?」
「なん・・・なん、でだよぉ・・・」
声を出すと、一緒に涙が溢れ、頬と床の間に流れ込み、濡れて張り付く感触が気持ち悪い。
遊馬は不自由な身体をひねるようにして、自分をこんな状況に落とした張本人を見上げた。
とっくに日は落ち、明かりひとつ点けられていない室内は暗かったが、町の光が強すぎるため、物を見るのに困ることはない。
ここは、風也の私室。
殺風景なほどに片付いた部屋はチリひとつ落ちていない。
ベッドの上に片ひざを立てて座る風也の顔は、半分だけかろうじて表情が見える。
何故、そんな冷たい目で笑うのか。
遊馬にはどうしても理解できなかった。
風也は、遊馬の事が好きだといったのだ。
友達としてではなくて、恋人にしたいという意味で。
遊馬にとってその言葉は晴天の霹靂、なんといっても今まで女の子とも付き合った事はなかったのだから。
けれどなんだかんだで付き合うことになり、付き合ってみると風也の気遣いや優しさに癒されてる自分がいて、いつの間にか身体も繋ぐ関係になっていた。
芸能人なんて仕事をしている風也は豪華なマンションに住んでいたけど、打ち合わせだなんだと母親は留守にしていることが多くて、そんな、誰もいない週末に泊まりに行くことが多くなった。
いつも通り、インターホンでエントランスのゲートを開けてもらい、エレベータで風也の家に行った。
玄関を開けてくれる風也はいつもの笑顔。
優しく花がほころぶように笑う端正な顔が遊馬は好きだった。
勝手知ったる他人の家。リビングでクッションを抱えたままテレビを見ていると、風也が紅茶を淹れてくれた。
かぐわしい香りというのはわかるが、紅茶は少し苦手だ。
「砂糖、入れるでしょ?」
紅茶のカップに続いて、白磁のシュガーポットが遊馬の前に置かれると、まってましたとばかりに蓋を取る。
たっぷりの砂糖が入った甘い紅茶は、けっこうスキだ。
「さんきゅー!」
シュガーポットからザクザクと砂糖をすくう遊馬を、紅茶に口をつけながら、風也は笑って見ていた。
遊馬にもう少しの注意力があれば、いつもの風也なら一杯だけ砂糖を入れて飲んでいたと思い出せただろう。
その後二人は風也の部屋で取り留めのない話をしながら過ごしていたが、しばらくして遊馬は自分の身体の異変に気付いた。
服の感触が、ひどく鮮明に感じるのだ。
身じろぐたびに肌をこする服の刺激が、布目すらわかるような敏感さでわかる。その上、手や頬がすごく熱い。
「あれ?」
熱があるのだろうか?
しかし、風邪を引いた時とは熱の感じが違っていた。
もっとくすぐったいような、暴れだしたいような違和感を感じた。
「遊馬、ちょっと、いい?」
考え込む遊馬に、風也はそういうと、遊馬の両手をとって背中の後ろに回すよう促した。
意味はよくわからなかったが、風也に促されるままに両手を後ろに回すと、何か布で一まとめに括られる。
「なっ!何すんだよ!」
これには流石に焦って遊馬は声を荒げた。
見えないがやわらかい布で括られているようで痛みはないが、悪ふざけにしても風也がやることとは思えない。
「自分で『処理』されちゃつまらないから。」
何を言っているのかわからずに風也の顔を見上げると、そこに浮かぶ笑顔は、遊馬の知っている風也の、どんな笑顔とも違っていた。
それから、どれほどの時間がたったのだろうか。
風也が何をしたのかはすぐわかった。
身体全体に広がった熱は、じわじわと一点に集まる。
既に自慰以外の高まりを知る遊馬にはその意味がよくわかった。
欲しくてたまらない。
風也の手が、風也自身が。
後編
風也君病んでるのがすごく似合うんでつい媚薬&縛り。
やっぱり長くなったんで分割してみました。
(110601)
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