―あ、懐かしい香りがする…
「なまえ…なまえ!」 「ふおっ!」 「風邪ひくぞ、こんな時間にこんなところで。」 「あー…シリウスだー…おはようござります…」 「―。はあ。おまえなあ、あんまレギュ以外の男に起き抜けの無防備なとこ見せんなよ、ほれ、着ろ。」
爽やかな、なまえにとって幼き頃を強く思い出す懐かしい香りが溢れる庭がホグワーツの中で一番の、なまえのお気に入りの場所だった。 少し呆れた顔をしている顔立ちの整った青年は、幼なじみであり兄貴分でもあるブラック家長男シリウス。彼の上着を羽織りぼーっとしながら立ち上がると、ちからの抜けている手を引かれた。
「なんでレギュラスにこの場所おしえねーんだよ。おかげで『また兄さんに頼むのはものすごく尺に障りますがなまえを一緒に探してください』って言われたんだぞ。」 「レギュってブラコンだよね。」 「あ?いやあいつは隠れブラコンとゆうかひねくれながらもブラコンとゆうか…「誰がブラコンですか。」
少しだけ低い声が響き、顔を見合わせ振り返ると幼さを残した、シリウスによく似ている少年が眉間に皺を寄せて至極不機嫌そうに立っていた。
「きゃー!レギュラスおはよ〜ぅ!」 「おはようじゃありません。今何時だと思ってるんですか。というかまた外で昼寝だなんて何を考えてるんですあなたは。」 「だって天気いいから!お日様に誘われたのですよ…」 「お日様に誘われただかなんだか知りませんがいい加減に少しは僕の身になってください。心配で本も読めません。」 「心配…」
ぶつぶつと冷静に文句をつきつける、こちらはブラック家次男のレギュラスだ。二度三度ならいいものの、自分が入学して何度目かわからない長時間の行方知れずにはほとほと苛立ちを感じていた。まったく悪びれないなまえをジロリと見ると、なにやら頬を染めてもじもじしているため、兄弟二人は顔をひきつらせる。
「じゃ、じゃー俺戻るわ、あとよろしく。」 「!こんな気持ち悪い状態のなまえを僕に押し付ける気ですか!」 「知らねーよ!お前の女だろ!」
役目を果たしてホッとしたシリウスは、そそくさとその場を立ち去ることにしたらしい。残されたレギュラスはなまえを見てため息をついた。
「レギュが心配してくれるなんて嬉しい…今日こそはちゅうとかしちゃうのかな?!が、がんばよなまえ!いた!」 「ふざけてないで帰りますよ。」 「む。ふざけてないんだけどなぁ。」
ぷぅと膨れる彼女は仮にも年上のくせに子供のように振る舞ったりはたまた変態だったりそうかと思えばやっぱり大人な一面もあったりと、どれがほんとのなまえかわからない。実は単純極まりないだけなのだが、レギュラスのような人間からすればその単純さが、つかみ所がなかったりするのでいつも振り回される羽目になっていた。
「レギュ、なに怒ってるの?」
むすっとしているように見えたのか、少し不安そうにレギュラスの顔を覗きこんできたなまえの顔を掌でむぎゅっと押し返せば、ぎゃいっと潰れたような小さな悲鳴が聞こえた。
「僕に黙ってあまり勝手にふらつかないでくださいね。」
そう念押しすると、なまえはにこにこ嬉しそうに笑った。レギュラスが顔をしかめても、やっぱり嬉しそうにしている。
「なんですか。」 「だって、心配してくれてるのが嬉しいんだもん。」 「……。」 「あ、さっきね、夢見たんだよ。お見合いのときの…。懐かしかった。」 「そんなに前じゃないでしょう?」 「そうだけど…だってやっと、胸張ってレギュの婚約者だって言えるのよ。」
―ああ、最近あなたが浮かれているように見えたのは。
懐かしい香りの庭で
僕はなまえの手を取り強く握りしめた。
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