今日も君はあの人を追いかけて、僕は君を追いかける。いつまでも交わることのない、君と僕の運命の糸。

「でね、ローはプリンが好きだって言ってたから、プリンを作ろうかなあって思って。」
「おー、そうだよな、キャプテンあの顔でプリンとか、可愛い食べ物好きだもんな、いいんじゃね?」

キッチンで何やら楽しそうに話しているのはシャチとハートの海賊団紅一点の****。嬉しそうに昨日島を発つ前に買ったお菓子のレシピ本を見ながらあれにしようこれにしようと、ローに作るお菓子を決めていた。そんな彼女を見ながらシャチは心の中で溜息をついた。まさか自分が惚れた女がローに恋をしているなんて―勝ち目もなければローと張り合う勇気もない。つくづく情けない自分に嫌気がさす。

「シャチ、シャチってば!!」
「あ、ああ悪い。」
「もー、どうしたのぼーっとして。人の話聞いてた?」
「聞いてた聞いてた。」
「その反応、絶対聞いてないでしょ。」

全く聞いていなかったがふくれる****を前にしてまさかそんなことは言えずに、シャチは適当に相槌する。だがさすがお見通しなようで、目の前の少女はますます頬を膨らませた。ふくれた顔も可愛いなあ、などと思いながらシャチは****から本を取り上げる。

「ふーん、簡単そうだな。」
「そ、そうかな。」
「あ、お前料理できないもんな。」
「う、うるさいな///シャチだって出来ないじゃん。」
「俺は出来ないんじゃなくてやらないの♪」

返してよっ、と****がシャチから本を取り返そうとすると、シャチは鼻歌を歌いながら冷蔵庫の方に歩いていった。

「えーと、卵と牛乳と…」
「シャチ!あたしが作るんだからね!!」
「料理できないのに一人でできんのか?」
「ぐ…で、でも自分でやらないとローに気持ち伝わらないし。」

―また、ローか。

この船で彼を呼び捨てにするのは****一人。物怖じしない性格は初めて会った時から変わっていない。そもそも最初の出逢いが自分とは身の丈に合わない相手に喧嘩を挑んでいたのだからもう少し自分の身を大切にして欲しいものだ。初めてローに会った時も相手が誰だか知っていてタメ口を聞いたりローだのなんだのとがやがやうるさかった。ローは****に一目惚れして仲間にしたようだが****はそれを知らないし、彼女の無鉄砲さは仲間になった今も変わらない。平気で男と同じことをしようとするし、能力者なのを忘れて、いるかやらくじらやらを見るたびに身を乗り出して海に落ちる。いつぞやは鮫に食われそうになったところを助けたこともあった。めちゃくちゃな奴だが、シャチは****と日々接する内に彼女を好きになっていたのだ。もちろん、あのローが一目惚れをして乗せたのだし、あのローが****を前にするとモノも言えなくなるくらいに惚れ込んでいるのだから、どうこうしようとは思わないが。
****がキッチンに立ち、プリン作りを始めたところでシャチはまた椅子に座って必死にレシピを見ている****をじっと見つめた。

「何してるシャチ。」
「お、ペンギン。」
「……………****が料理だと?」
「キャプテンにプリン作るんだってよ。」
「……キャプテンに。」

少しむくれた様子のシャチに、ペンギンはふっと笑った。なんだよ、と問えばますます笑われる。

「それでむくれてるのかお前は。」
「…べ、べつにむくれてねーよ!」
「お前はわかりやすい。」
「……///」

冷蔵庫から水を取出しコップに注いでいるペンギンに気が付かないほどに、****はプリン作りに真剣だ。シャチは大きな溜息をついてペンギンに尋ねる。

「不毛だ。」
「そんなの最初からわかりきってることだろ。」
「不毛すぎる。」
「はじめから想い合ってる二人の間に横恋慕を始めたのはお前じゃないか。」
「そりゃあ…。」
「ま、応援してやりたい気持ちもなくはないが、俺は****が可愛いからな。キャプテンと幸せになれるならそれが一番いいさ。」

めちゃくちゃだし俺様だが器はでかいし頼りになるし機転はきくし実は仲間思いだからな、とペンギンは付け足してキッチンを出て行ってしまった。心の中でシャチはペンギンに、あいつ俺を落ち込ませたいのかと恨めしげに呟いてふと****を見る。本を片手に頭を悩ませながら一生懸命作っている様はなんて可愛い、ローが羨ましかった。

「何してる。」
「あ、キャプテン。」
「…!!ロ、ロー!!」

のそのそと、上半身裸でいかにも今起きましたの格好のローが甘い香りをかぎつけてやってきた。内緒で作って驚かせようと考えていた****はきゃーきゃーと材料やら何やらを両手で隠し始めるが全く意味はなく、バサバサと床に落ちた本をローが拾ってじっと見る。

「菓子…」
「ち、違うの別に内緒で作ってローにプレゼントしようとしてたわけじゃないの!」
「****、ばればれだよ。」
「ああっ、そ、そっか…!!」
「…。」

シャチの突っ込みに、真っ赤になった****はどうしようどうしよう、と手を止めた。すると、横からすっと長い指がボールを掴む。

「え…」
「………一緒に作ればいいだろ。」

横顔しかわからないが、微かに赤く染まった頬。****は満面の笑みで、うん!と、ローの隣に並んだ。シャチから見る二人の後ろ姿はまるで恋人で、なんで付き合わないんだか、と虚しくなってきた為静かにキッチンを後にした。甲板に出て、一人海を見ながら黄昏れているとひやっとした感触が頬にあたる。驚いて振り向くとそこにはペンギンが立っていた。

「な、なんだよペンギン。」
「―大方、起きてきたキャプテンと仲良くキッチンで並んでる光景に耐えられなくて出てきたお前を、慰めてやろうかと。」
「―……!!!」
「図星だろ?」

きゅっと、ビールの蓋をあけてシャチに差し出すとじんわり涙を浮かべて口をむすんだ。

「ひ、、昼間からビール飲めってのかよ…」
「俺達は海賊だ。昼も夜も関係ないだろ。」

ごくっと一口喉を鳴らすペンギンの誘惑に負け、シャチはビールを受け取りごくごくと飲む。

「ぷはーっ、やっぱビールうめえええ!!」
「ふん…泣き虫。」
「な、泣いてねえよ!」
「どうだかな。」

鼻で笑うペンギンに、シャチは押し黙る。確かに、ペンギンの言う通りだ。見ているのが辛くて逃げ回って、一人で勝手に傷ついている格好悪い自分。いっそのこと、早く二人が恋人になってくれれば諦めもつくかもしれないのに―。

「悔しいけど、キャプテンと居るときの****が一番可愛いんだよなー。」
「…まあ、言えてるな。」
「だろー?はあ…」

俺に向けられることがない笑顔、キャプテンしか隣で見られない笑顔…あーあ、いつまで片想いするんだか。

「不毛だなあ。」
「なにがあ?。」
「なにがって…ってええええ?!!!」
「あはは、シャチなんかへーん。」
「気にするな****、いつもだ。」

ひょいっと、シャチの顔を覗きこむ****に驚き後ずさり、いつからいたんだとかなんでいるんだとかいう色んな思いがぐるぐる巡る。そんなシャチなどお構い無く、****ははいっと二人にプリンを差し出した。

「ローと一緒に作ったの!ローってば実は料理上手だからあっという間に出来ちゃったぁ。二人にもあげる♪」
「俺は甘いものは「マジで?!俺らも食っていーのか?!」」
「ふふ、シャチは甘いもの大好きだもんね。」
「あれ?これ、三つあるぞ?」

シャチは三つあるプリンを不思議に思う。ああ、ベポの分か?と一瞬思ったがすぐに****がシャチは二つだよと声をかけた。

「俺だけ?」
「うん、いっつもシャチなんだかんだで私に付き合ってくれるでしょう?日ごろの感謝の気持ち!」
「……。」
「良かったな。」
「……サ、サンキュー!」

シャチが満面の笑みでお礼を言うと、****も満面の笑みを返してくる。それはシャチが初めてみた種類の、ローに向けるものとも違う笑顔。きっとこれは自分が初めて見たんだなと、こういう笑顔が見たいんだと、プリンを食べながら考えた。

「****、キャプテン好きか?」
「…///な、なに突然…」
「いーから、好きか?」
「………うん///」
「―そっか!」

いつまで続くかわからない君と僕の追いかけっこ。君はあの人が好きで、僕はあの人を好きな君が好き。


(君となら、それがずっと続いても。)



君と僕の追いかけっこ


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