まだ一度も実戦に出してもらえていない私は、一体何のためにこの船にいるんだろうと、ぼんやり考えていた。ただ毎日、みんなの身の回りのことを手伝って。本当にそんな生活でいいのかな。ここの皆は優しいし…みんなの笑顔が見られるならそれはすごく嬉しいことだけど。

だけど…だけど私はやっぱり…。

そう。私が今感じているのはきっと焦燥感なんだと思う。





「………い。聞いてんのか。」
「きゃっ…」

わしゃわしゃと、金色のふわふわした髪を撫でられ****は小さく悲鳴を上げた。なにするの、と言いたげに頭を撫でてきた当人をジロッと睨み付けるが、彼からしたらなんにも怖くないのだろう。にやり、と笑い、彼女の額をがつっと叩く。突然のことに****は涙目になってローを見上げた。

「痛いっ…」
「今日はずいぶんと機嫌わりぃな。」
「……なによ。」

むすっと拗ねている****をじっと見つめる。彼女が機嫌が悪い理由はわかっている。もう随分前から。だが、何度言われても、意見を譲る気にはとてもなれなかった。

「ロー。」
「なんだ。」
「なんで私、戦闘に出してくれないの。」
「…。」

恨めしげに問いかけられて、そのまま応えずに無言で部屋に帰ろうとするローの服の裾を掴み、潤んだ瞳で彼を見上げる****。こいつは確信犯なのか。ローはため息をついて****を見つめた。

「私、もっと役に立ちたい!!私だって戦えるんだもん!もっとローの役に…」

言い終わる前に案の定ぐっと抱きしめられて戸惑う****の耳に、ローの規則正しい心臓の音が聞こえる。その音を聞いていると不思議とそれまでの感情が和らいだ。

「…なぜ戦闘に出さないか…そんなの決まってるだろう。お前を失うのが怖いからだ。」

海賊が、そんなこと言うなんて笑っちまうだろうが。

それでも俺は、<もしも>の、<最悪>の、可能性を考えずにいられねえんだ。

珍しく弱々しい声を出すローの背にそっと腕を回すと、****は少し困ったように笑う。海賊になったんだからそういうのも覚悟してるよ、そう呟けば益々抱き締め腕に力がこめられた。

「……いたいよロー。」
「……うるせえ黙ってろ。」

怖いものなんか何も無い。
だけど、ただ一つ。
たった一つ。
お前の居ない世界だけはどうしても耐えられそうにない。

「ありがとう、ロー。」

だけど、やっぱり私も闘いたい。私も好きな人守りたいって、思うんだけどダメですかね?

****がそう言えば、溜め息をついてバーカと、彼は意地悪く笑みを浮かべた。

(こんな私をあなたは笑いますか?)




きみのすべてになりたくて


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