チャポン…と静かに水滴が湯に落ちた。湯気でぼんやりと白い視界が心地よくて眠りを誘う。
「遅くなっちゃったなあ…」
****は浴槽から出ている肩に手で湯をかけ、くてんと頭を壁にもたげた。いつもは唯一の女性クルーのため皆が気をつかってくれるのもあり早々に湯をもらうのだが、今日はローから借りていた本に夢中になってしまい0時を回ってからの入浴となった。いつも思うことだがこんなに広い湯に一人で入るのは少し寂しい。が、一緒に入ってくれる相手も居ないので仕方なく、****はパシャパシャと泳いだり鼻歌を歌ったりしながら入浴していた。
「今日ローに逢ってない…」
医学の勉強で自室にこもることが多いローは必要最低限しか外に出ない。そんな日はローは部屋に他人が寄り付くのを嫌がる為恋人とはいえ彼に逢わない日があることも少なくなかった。
「………逢いたい、な。」
口から出た言葉にはっとし、****は誰も居ないのに慌てて口をふさぐ。十分過ぎるほどローは愛をくれているのに人はどうして欲張りになっていくのだろう―もっとローに逢いたい、愛されたい、触れたい、触れて欲しい―最近の自分はどうもおかしいのではないかと、****は実は悩んでいた。まだ一線を越えていない自分達。別にあせっているわけではないが、いつまでもローが遠慮がちに自分に触れてくることがなんだかもどかしく違和感を覚えるのだ。
高い天井を見つめぼーっとしていると、ドアが開く音が聞こえてきたのでこんな夜中に誰だろうと****は少し表情を強張らせた。クルーに裸を見られたなどローにばれたらそのクルーが殺されかねない。
「誰…?」
「は…****?」
「ロー!」
誰も居ないと思っていたその浴室に、予想外にも無防備な姿の恋人が居たことにローはくらりと眩暈を覚えた。透き通った湯の中に浮かび上がる****の白い肌はローの理性を刺激する。
「な、なんで///」
「……それはこっちの台詞だ。居るなら鍵かけろ、入ってきたのが俺じゃなかったらどうする気だった。」
「……も、もうみんな入ったと思ったからいいかなって…///」
****のあまりにも単純な返答にローは小さく溜息をつき、静かに湯に足を入れた。普段はパーカーやTシャツを来ている彼の身体を見るのは初めてで、****は自分の身体を見られる以上に恥ずかしくなりローから目を背ける。
「おい****。」
「きゃあ!!!?なななな、なに?!!!!」
「驚き過ぎだろ…」
「だ、だ、だってロー!!近い!!!だ、だめだよ、離れて…」
「なんでだ。」
「ロー…色っぽいんだもん…///」
いつの間にか目の前に居るローの身体を両手で押し遣り、****は顔を真っ赤にして目をぎゅっと瞑る。するとローはその手を掴み****のふっくらした桜色の唇にやんわりと口付けた。
「…****。」
「?」
「俺が部屋にこもってようとなんだろうと、気にしなくていいから逢いに来い。」
「………!!」
「お前に逢わない日があるのはいい気分しねえしな。」
ローが寂しそうな顔をした気がし、****は彼の唇を指でなぞる。
「…ローも寂しかった?」
「…まあな。」
「逢いに行って、いいの?」
「駄目な理由がないだろ。」
ローは****の滑やかな肌に触れ、そのまま彼女を抱き締めようとするが****が小さく抵抗したので手を止めた。
「…なんだ。」
「だって裸だし…」
「さっきからそうだろ。」
「そうだけどっローが色っぽいから…「…悪いな****。」
****の言葉を遮り、ローは彼女を抱き締めそのまま彼女の首筋に舌を這わせた。今まで触れることをためらわせていた彼女を覆うベールをなぜか今は感じない。白い肌に紅を散らしていくローの腕の中では、頬を真っ赤にした****が切なげにその刺激に耐えている。ローは****の唇にそれを重ね何度もついばむように口付けてから、舌を差し入れ彼女の口内を侵していった。その深い口付けに****は身体中が熱を帯びていくのを感じ余計に頬を赤くする。
「ん…ふぅ…っ…」
「……****っ……」
―ローに、名前を呼ばれるのが好き。
「……おい…****…」
―あれ?なんかローが心配そうな顔してる…ん……なんかぼーっとしてきた…
「****!!」
「……ふぇ……」
とろんとした目に入ってきたのは心配そうに自分を見つめるローと天井。手をぎゅっと握ってくる****にローはホッとしたような表情を見せた。
「ったく……のぼせやがって…」
「…ご、ごめんね…」
俺が入る前からだらだら湯につかってたんだろ、などと毒を吐かれながらも****はローに優しく髪を撫で上げられ嬉しそうに笑みを浮かべた。のぼせたのは湯に浸かりすぎたせいだけではなく、ローから受ける甘い甘い刺激に身体が熱を持ちすぎてしまったから、なんて到底言えないが、ローのひんやりした手が心地よく自分の手をそれに重ねてみる。
「ロー、…つ、続き…してくれないの?///」
「…は。」
自分の部屋ではあるがここに居てはのぼせた****に理性を崩して襲いかかってしまいそうなので部屋を出て行こうと思っていたのに、可愛い声で、上目遣いでそんなことを言われてしまえばもう理性など抑えられるわけがない。ローはくしゃくしゃと****の頭を撫で、うっすら赤い彼女の頬に軽くキスをする。
「…もう途中でやめねぇぞ。」
「……うん…///」
照れ笑いする****に覆いかぶさり、まずは甘く瑞々しい果実のような唇にキスを落とした。
(貴方がくれる甘さはあたしを溶かして、だけど離さないの。)
甘過ぎて、溶ける
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