「****、入るぞ?」

扉を開けるとシンと静まり返る部屋。窓が微かに開いていて、そこから流れ込んでくる風がレースのカーテンをゆらゆらと揺らしていた。ローはそっと部屋の奥に進み、ソファーを覗き込む。

「…やっぱり、な。」
「…。」

そこにはすやすやと気持ち良さそうに眠る、桜色の髪の少女。薄手のワンピースから、白い首筋や鎖骨、細い腕と長い足が姿をみせている。その様はまるで襲ってくれと言わんばかりに欲情をそそる。ローは大きな溜め息をつき、もうひとつの1人用ソファーに腰掛け、彼女の前髪にそっと触れた。すると、くすぐったかったのか、一瞬ふふっと笑い、またスースーと寝息を立て始める****。

「…無防備過ぎだろ。」

部屋の中なのだから別に構わないが、寝ているのなら鍵くらいかけておいてもらいたいものだ。男だらけの船での紅一点なのだから、何か間違いがあってからでは遅い。もちろん、****がローの恋人であることを知っているクルーがわざわざ自ら死を選ぶような真似はしない。が、それでももう少し自分が女であることを自覚を持って欲しい、とローはがっくりと肩を落とした。

「ん…ロー…」

起こしてしまったか、と一瞬動きを止めて****を見つめるが、目を覚ます気配がないことから寝言だったのだとわかり、ローはホッとした。同時に、夢にも自分が登場し彼女に名前を呼んでもらっていることはこんなに嬉しいことなのか、と少しだけ戸惑う。

「…寝かしとくか。」

近くにあったブランケットをそっと掛け、ローは部屋を出て行こうとする。するとくいっとパーカーの裾を掴まれたので動きを止めてみた。掴まれた先を見ると、細く白い彼女の腕。相変わらず眠ったままのようなので、無意識のうちなのだろう。

「おいおい…勘弁してくれよ****…。」






「……あ、れ…?」

夕焼けが部屋に差し込み肌寒くなった頃。目を覚ました****は自分にブランケットがかけられていることに気が付き、寝ぼけながらも不思議に思っていた。確かあまりにも日差しが気持ち良くて、本を読んでいる途中で眠ってしまった気がする。

「……ロー…?」

僅かに、だがローの香水の香りが鼻腔に届く。おそらく何か用事があって部屋にやって来たローが、夕方になると冷えるからと気遣いかけてくれたのだろう。なんだか無性にローに逢いたくなり、****はブランケットを持ったまま、自分が掛けた覚えのない鍵を外し彼の部屋へ向かっていた。冷たい廊下を少しだけ歩き、彼の部屋の前に辿り着くとコンコン、と控えめに扉をノックする。しかし、いつもなら聞こえてくる声がない。部屋に居ないのだろうか。ドアノブに手を掛けると、鍵がかかって居ないことに気が付き、そっと中を覗き込んだ。するとベッドに横たわるローの姿を見つけた。

「ロー…寝てるの…?」

片手には本を持ったまま。その本を起こさないようにそっと取り上げ、小さな声で問いかけるも、返事がない。****がベッドに腕をつきローの頬に触れようとした時、突然強い力で引き寄せられ世界が反転する。視界に映るのは天井と、そしてロー。

「ロー!!…ね、寝てたんじゃ…」
「誰かさんとは耳の鍛え方が違うんだ。入ってくる前からわかる。」
「じゃあ寝たフ…んッ…」

言い終わる前に唇を塞がれ、****は顔を真っ赤にした。そういえば最近ローは忙しく部屋にこもりっきりで二週間程、こんな風には触れられていない。一気に身体中に熱を帯びるのがわかる。ローは****の首筋に指を這わせゆっくりとなぞりながらニヤリと笑った。

「悪い奴には仕置きをしなきゃならないな。なあ****?」
「ッ…え……?」
「いつも言ってるよな、寝る時も鍵かけとけって。」
「あ、そ、れは…」
「久しぶりだし加減はしねえ。」
「ロー、あの、ね…?」
「―イイ声で鳴けよ?」
「…ッ…あ…ッ…!」

意地悪な言葉とは裏腹に、優しく触れるローが好き。


(名前を)
(好きを)
(もっと唱えて、それが二人の愛の呪文)


柔らかな呪文


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