「****、コーヒー買ってこい。」

むかつく。

「砂糖入り買ってきやがったら殺すぞ。」

むかつく。

「ついでに煙草も買ってこい。」
「制服で買えるか!」
「買って、こい。」
「…………ローのばか!!嫌い!!」

うわあああんと教室から飛び出すも、足は結局コンビニに向かっていた。ああ、ローに会ってから私の人生めちゃくちゃだ。






「―とか言いながら、結局ローの言いなりになっちゃうわたくし…」

私は学校近くのコンビニに駆け込みかごにぼんぼんとブラックコーヒーを入れていった。なんでいっぱい買うかって?前に一本だけ買って帰ったら「お前は馬鹿か。一本だと誰が言った。」と青筋立てて足を蹴られたのだ。何すんのよとまくしたてればあの綺麗な顔を近付けて「最低五本は買ってこい。」と言われたのだから、ちくしょう私の気持ちも知らないで!と内心で叫びながら顔を真っ赤にダッシュでコンビニに走ったことがあるからだ。じゃあお望みどおりにたくさん買ってきてやるよと思って、今度は二十本買って帰れば、「気を楽にしろ。」と、気絶させられた。私女なんだけど。目が覚めたら放課後で、教室にはローと私しかいなくて、「やっと起きたか帰るぞ」なんて言っちゃってさ。優しいんだかなんなんだか、つーか元はといえばローのせいだけどね。今ではもう買い慣れて、十本あればまず文句は言われない。

「あとは…」

あとは煙草。それが問題だった。だって煙草だよ?未成年だよ制服だよ、買えるわけないだろーがあの隈野郎。
心の中で毒づくが、駄目元でにっこり笑ってみた。

「……ラッキーストライク一つ。」
「未成年の方には煙草の販売は行っておりません。」

レジのお姉さんは苦笑いしながらそう言った。だろうな、うん、わかってるよ、うん。あーあやっぱりなあ。

「どうしてもダメですか?あたしパシリで…買って帰らないとなんて言われるか…」

この美少女が可愛く泣いてお願いしているんだから動揺しないわけがない。案の定、お姉さんは目をうるうるさせながらかわいそうに、と言っていた。よっしゃ、あと一歩。

「****、なーにしてんだ?」
「………!!!!!!!!パパ!!!」
「おーい、外ではシャンクス先生って呼べって言ってるだろ。」
「あはは、ごめんごめん。」

赤髪の男性がふらりとコンビニに現れ、あたしはおどけて笑って見せた。父親にしては若い風貌のシャンクスパパは、あたしが通う学校の数学の教師でもある。

「なんだ、またローにパシリにされてんのか。」
「…パパからも言ってよあのローのクソ野郎に。」
「こらこら。女の子がクソ野郎なんて言うもんじゃない。あー、ラッキーストライクを二箱くれ。」

パパは煙草を買いに来たようで、二箱買うとあたしに行くぞと声を掛けてコンビニを出た。すると「****、ほら。」と買ったばかりの煙草をコロンとあたしの手にのせる。

「……ありがとう!」
「しかしかわらんなお前達は。昔からちっとも。」
「……かわらなすぎて困ってるんじゃん。」
「お前は昔からローが好きだもんなあ。」
「べ、別にそんなんじゃ…」

父親にまでばれていたなんて―かぁっと顔が熱くなってあたしは、先戻るね、といそいそと走って学校へと戻ることにした。

「おせえ。」

学校に戻ると不機嫌な顔をしたローが玄関に立っていた。不機嫌な顔もやっぱりかっこいい…そんな気持ちを抑えて上履きにはきかえ、あたしはニコッと笑ってみせる。

「すいませんねー。」
「ちゃんと買ってきたか。」
「てゆーか、制服で煙草なんか買えるわけないじゃん。」
「―……入ってんじゃねえか。」

ローが受け取った袋の中にはしっかり、愛柄の煙草が入っている。きっと今ローは、無茶難題を言ってやったのにまさか本当に買ってくるとは。とでも思ってるんだろうな。ふわり、と髪をかきあげながらあたしはローの隣に並んで立った。

「パパが偶然来たから買ってもらえたの、感謝してよね。」
「ふん。」
「ふん。はこっちの台詞じゃ!もー、なんであたしばっかりパシリにさせられんのよー。あんたの為なら買ってきてくれる女の子いっぱいいるじゃん。大体なんでそんなにあたしに構うのよこっちの気も知らないで。」

キーッとまくし立てて不満を言えば、青筋立てて口元をひくつかせている綺麗な顔。あ、やばい、と思った時には時既に遅し。

「―なんで、だと?」
「な、なに。」
「それはな****。お前が馬鹿だからだ。」

馬鹿だから。
まさかの返答に目が点になる。この男、そんな理由だけで十何年もの間人をパシリに使ってきたのかこんにゃろう!言ってやる、今日こそは言ってやる!!!

「馬鹿だからだ。」
「二度も言うか!!!てゆーかなんで馬鹿だからってパシリにされなきゃなんないのよ、パシリにすんな隈やろ―」

反論すれば突然腕をぐいっと引かれて唇にあたる柔らかい感触。時間にすればほんの数秒で、ぱっと腕を離されると同時に離れる唇。何が起きたか理解できないあたしの目の前にはムスっとしたローの顔があった。

「―………え?」
「いつまで経っても俺の気持ちに気がつかねえから馬鹿なんだよお前は。」
「………あ、あのー…」
「ちったあ気が付け。」
「………………。」

そのままスタスタ歩いて行ってしまったローの一瞬垣間見えたにやにやした笑み。残されたあたしはずるずると、顔を真っ赤にしてその場に座り込んだのだった。

(昔から、見ているのは君だけ。)







好きな子程苛めたい!!


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