魂の余燼(U)
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班室の方が騒がしくなったのが気になって常磐は顔を上げた。
でも事務所への扉は閉まっているので様子は伺えない。
狭霧が帰ってきたのだろうか。
執務室の狭霧の席は空いている。
用事があるとかで30分ほど前に席を立ったのだ。
でも声の感じからして、どうやら胡蝶のようだ。
椎名と胡蝶のコンビが仕事から帰ってきたのだろう。
予想通り帰りが早い。
やっぱり椎名に楽な案件などもったいない。
というより、それなら椎名を使ってる意味がない。
やはり椎名ほどの「葬儀屋」なら、難しい仕事のほうが相応しい。
常磐は今しがた上がってきた新しい仕事の書類を見ながらそんなことを思った。
きっと終わった仕事の報告書を出しにここに来るだろう。
椎名は来ないだろうが、せっかく楽な仕事を回してやったんだ。
呼び出して調子を聞くのもいいだろう。
きっと…いや椎名のことだから絶対に弱音は吐かない。
最初から楽な仕事なんていらなかった、ぐらいの事を言うだろう。
そうなれば常磐の思うツボ。
常磐は一枚の書類を持ち上げ、この仕事を最優先に片付けてもらうことにしようと考える。
別に常磐は椎名に意地悪をしたい訳ではない。
現にこの仕事は椎名レベルの「葬儀屋」にやってもらうべき案件だ。
常磐が気にしてるのはどうやってこれを椎名にやらせるか。
要はどう説得するかだ。
別に人から嫌われることには興味はないが、仕事が片付かないのはよろしくない。
だからどうやって椎名のモチベーションを下げずに仕事に行かせるか。
ただ常磐は仕事をこなすのみ。
そこに他者への関心はない。
誰かを休ませてあげたいとか、難しい仕事を当てて苦しませてやりたいという思いはない。
困った顔を見たいとは思うかもしれないが。
常磐は持ち上げた書類を束の上に戻して、再び元の仕事に戻った。
胡蝶が来るにしても報告書を書いてからだろう。
もう少し時間はかかる。
しかしその予想は意外な形で外れた。
常磐が元の書類に目を落としたすぐ後に執務室の扉が開かれた。
しかも入ってきたのは椎名。
常磐は思わず「おや?」と声を出した。
「もう書類も書き終わったんですか?簡単な仕事だからって書類も適当に済まさないでくださいよ?」
常磐は冗談混じりに言ったがそうではないようだ。
「このおっさん、かなり手強いぜ」
そういって椎名が滝川富雄のデータを常磐の作業中の書類の上に落とした。
常磐はいきなりの展開に驚いたが、椎名の後ろで胡蝶が申し訳なさそうにしているのを見て興味が沸いた。
胡蝶でも説得できない相手。
しかも椎名がここにいるということは「影」になる恐れは今のところないのだろう。
もし「影」になっていたり「影」になりそうなのであれば、こんなところで悠長に悪態をついてる暇はない。
常磐は目の前に置かれた書類を手にとった。
だが見覚えはない。
いや、きっとひと目は見たのだろうが、特別気にする情報もなかったためすぐに狭霧に回したのだろう。そこから胡蝶に渡ったという流れだ。
「あんた、わざとこのおっさんを俺たちに回したのか?」
その後に『騙しやがって』と続きそうだった。
「言いがかりはよしてください。まだ詳細を伺ってません。そもそもこれを回したのは狭霧でしょう?僕が責めを受ける謂れはないと思いますが」
そう言われ、椎名はようやく両手を常磐のデスクから離した。
「何があったんです?」
そう言いながら常磐はその書類に目を通した。
現世に留まる理由は娘の事。
「その娘について聞いてもなにも話さないんだよ」
死者は生者と比べて感情に素直だ。
良くも悪くも自分の感情を抑えない。
それが高じると「影」を呼ぶし、低すぎると繭のように閉じこもる。
つまり、滝川富雄のように死者になってもなお自分の感情を隠すのは珍しいパターンだ。だからこそこの二人が手を焼いているのだろう。
椎名の後ろで胡蝶は申し訳なさそうに俯いている。
「あんた、何か隠してるんじゃねーか?」
相変わらず椎名は常磐を疑っている。
まぁ疑われる理由に心当たりはありすぎるが。
しかし今回は違う。
常磐のあずかり知らないところで問題が捻れている。
書類の不備か、それとも書類が制作された後に滝川富雄に何かが起きたか。
その責任を常磐に求めるのも酷な話だ。
「僕から言えることはなにもないですね。情報局に行かれてはどうです?」
情報局。この書類の出どころだ。
そこなら新たな情報を得られるかもしれない。
しかし椎名は気が進まない。
ただでさえ人と話すのが苦手なのに、滅多に会わない奴とならなおさらだ。
だが返事を返したのは椎名の後ろから。
「分かりました。行ってきます」
仕事熱心な胡蝶からだった。
きっと滝川富雄のことが心配なのだろう。椎名に声を掛けることなく執務室の扉を出て行った。
「椎名」
立ち尽くす椎名に常磐が声を掛ける。
いやいや振り返ると、常磐が例の書類を椎名に差し出していた。
「これを持っていかないと手間がかかりますよ」
あわよくば事務所で胡蝶の帰りを待とうとしていた椎名だが、やっぱり情報局に行かなければいけないらしい。
椎名は渋々受け取って執務室を出て胡蝶を追いかけた。
エレベーター前で胡蝶が立っている。
追いついた椎名に振り返った胡蝶の顔は思いつめたような表情だった。
この顔は以前に見たことある。説得虚しく死者を「影」にしてしまった時だ。
滝川富雄はまだ「影」になると決まったわけではない。
しかし何の情報もなく引き返せざるを得なくなったこの状況に苦しんでいるのかもしれない。
だがそんな胡蝶に掛ける言葉を、椎名は持ち合わせてはいない。
多分狭霧なら優しい言葉でもかけるのだろう。
常磐は、優しさはなくとも実際的で役立つ事を言ったかもしれない。
だが椎名にはどちらもできない。
ただ「これ持っていかねぇと面倒だってよ」と、書類を胡蝶に渡すだけだ。
「あ、ありがとう」
と言って書類を受け取る胡蝶。
そこにエレベーターが来た。
胡蝶が先に乗り、椎名がここより一つ上の階のボタンを押してドアを閉める。
「ごめんね、椎名君。面倒なことになっちゃって」
胡蝶が呟いた。椎名は背中で聞いている。
確かに説得事は胡蝶の仕事、実力行使は椎名の仕事と役割分担を決めている。
しかしそれはあくまで椎名・胡蝶ペアだけが決めている大雑把な分担というだけだ。
もし完全分業制なら胡蝶の負担が大きすぎる。
実力行使は希だが、説得は毎回あるのだから。
だからこの問題は二人の問題だ。胡蝶だけを責めることはできない。
それに胡蝶が説得できなかったのなら、椎名はおろか管理局の他の者だって説得は難しいだろう。
そんなことを言えば、少しは胡蝶の心は安らぐだろうか。なにも言わないよりはマシだろう。
しかし椎名は胡蝶に背を向けたまま何も言わなかった。
久しぶりにエレベーターに乗ったせいか、たった一階分の上昇がやけに長く感じた。
「ねえ、椎名君。海棠さんって人、分かる?」
情報局の事務所に入ってから胡蝶が小声で聞いてきた。
知らずにここまできたのか。もしくは部屋の見取り図なんかがあることを期待していたのかも知れない。
「知らねぇよ。誰なんだ?その海棠ってやつは」
「この書類を制作した人だよ」
そう言って胡蝶は書類の上の隅に書いてある名前を指さした。
そこには確かに書類制作者名のところに「海棠」と書いてある。
椎名は今まで死者の情報しか見てなかったから書類を作ったやつの事なんか考えたこともなかった。制作者欄があるのは知っていたが普段は全然気にしていない。
「どうしよう…」
と、胡蝶が小声で呟く。
しかし小さい胡蝶はさておき、長身の椎名がこの部屋にすでに入ってきてる以上目立たないわけにはいかない。
「何かご用ですか?」
と声を掛けられるのは当然。
声を掛けてきたのはここの班長である賢木。
「あ、あの!海棠さんはいらっしゃいますか!」
キーボードを打つ音だけが聞こえる静かな部屋で胡蝶の大声が響く。
胡蝶は情報局に来るのは初めてなのかもしれない。
そんなに緊張することもないだろうが、椎名にとっては代わりにしゃべってくれるなら何でもいい。
先ほどの胡蝶の大声のせいで事務所の全員がこちらを向いている。
これなら賢木を通さなくても本人に聞こえてるはずだ。
案の定一人の女性がビックリしたような顔でこちらを見ている。
まっすぐ切りそろえた前髪と猫のようなツリ目が特徴的なその女性は、いきなり自分の名前を呼ばれて驚いているようだ。
彼女にとって、一人はどっかで見たことあるような男。もう一人はまったく知らない女だ。
賢木が目で合図すると、海棠は戸惑いながらも立ち上がって椎名たちの元に来た。
「私が海棠ですが…なにか?」
「あ。ごめんなさい、大声で。私は管理局の胡蝶といいます。こっちは相棒の椎名く…椎名です。あの、ちょっと聞きたいことがあって」
と言って滝川富雄の書類を海棠に見せる。
海棠は受け取ってザッと見るが、あまり覚えはない。
制作欄に自分の名前があるのだから確かに自分が作ったのだろうが、一日に数え切れないぐらいの情報をまとめてる海棠からしたら、いちいち覚えていられない。
しかも、情報を見るにさほど特徴的な死者でもない。
海棠のやることだから手抜きはないが、難易度が高いとも判断しなかったのだろう。海棠は、気になる死者は他より分けて賢木に渡したり、適任と思える管理局の者に直接渡したりしている。過去にその例もある。
きっとこの滝川富雄はその他大勢という認識だったのだろう。
「滝川富雄さんが現世に留まる理由がはっきりしないんです。聞いても答えてくれなくて」
その胡蝶の言葉に海棠は一瞬書類を読む目を止める。
「まさか、眠ってるの?」
「え?いえ、寝てはいませんよ?ちゃんと話してきました」
「あ、ああ。そう」
海棠はぎこちなく返事してまた目線を書類に戻す。
「それで?わたしになにを?」
海棠は読み終わった書類を胡蝶に返して言った。
「あの、他にも何か情報があればと思って…」
「わたしの書類に不備があると?」
「い、いえ!そういう訳では……」
海棠は裏方意識が強い分、自分の仕事にプライドを持っている。
確かに処理情報の多さ故に滝川富雄のことはすぐに思い出せなかったが、それでも手抜きをしたはずはないと自負している。
「情報局のみなさんには感謝してます。今回の滝川富雄さんのように、80年もの人生をまとめるのは大変だと思います。それでもよく纏められてるので状況がすぐに分かりますし、補足情報で助けられたことも沢山あるんです。今回はあたしの能力の限界で状況が上手く進まないので海棠さんに助けていただきたくて。全体を把握してる海棠さんならどう判断されるかなって……」
意識してかしないでかは分からないが、胡蝶はやっぱりネゴシエーションに向いている。
胡蝶にとって相手が死者だろうが「葬儀屋」だろうが関係ないらしい。
相手を受け入れ、理解し、それを表現する。
たぶん同じことを椎名がやったとしても相手を小馬鹿にしているようにも取られかねないが、そこはやはり胡蝶だからいいのだろう。
小柄で同じ女性の海棠に対しても少し見上げて話す胡蝶は、一般的に可愛いとされる少女なのだと思う。
裏のない胡蝶の話は素直に聞いてしまうし、誠心誠意のお願いは断りにくい。
海棠もそれに気づいているようだが、やはり断る事はできないようだ。
「分かりました。来てください」
そう言って海棠は胡蝶と椎名を自分のデスクに通す。
「これが滝川富雄の生前のデータです」
海棠が自分のパソコンをいじってデータを呼び出した。
約80年分のデータが呼び出される。これに目を通すのは大変なことだ。
「重要なのは死ぬ直前のデータですから」と、画面をスクロールさせる海棠。
やはりデータの読み方というのもがあるらしい。
直接の死因に未練や怨念がある場合が多いし、それが特別なものでなければ家族や周辺の人、少し過去に遡って調べていくという流れのようだ。
滝川富雄の死因は知ってる。
胡蝶が知りたいのは娘との関係だ。
滝川富雄が現世に留まっている理由は娘の美奈子であるに違いない。
「そこまでは一緒の考えですね」
そう言って海棠は滝川富雄と滝川美奈子の関係性についてまとめたページを出した。
「そうなんです。滝川富雄さんの表情を見ても娘さんに執着してることは分かるんですけど、何故かは分からないんです」
娘が気にならない親などいない。
しかし現世に留まるというのは半端な思いではない。
しかし海棠の詳細なメモにも、滝川美奈子が生まれつきの障害を持っていること、滝川富雄が死ぬまで介護し、死後は親戚によって病院に入れられたことしか書かれていない。
目新しい情報はなかった。
つまり、海棠の報告書が本当に的確にまとめられていたということだ。
しかし海棠も喜んでいいのか分からなかった。
手がかりはないまま。
「おい。あのおっさん、死ぬ前に死神を見たって言ってたが、それはどうなんだ?」
後ろで腕組しながら立っていた椎名がいきなり声を掛けた。
まったく関心がないと思っていたら、一応画面は見ていたらしい。
胡蝶は背が低いから、椎名なら胡蝶の頭越しでも画面が見える。
「死神?」
「ああ」
「……どういうことですか?」
「あのおっさんが言ってたんだよ」
「あの、滝川富雄さんが事故を起こして亡くなる直前に死神を見たって言ってるんです。だからあたしたちのことも死神だって」
胡蝶が補足をして「ね?」という感じで椎名を見上げる。
椎名はもう他所を向いてしまっていた。
しかし、あんな一言を覚えているとは思わなかった。
死神と言われたことが椎名にとってはいい気分ではなかったのかも知れない。
かつての自分を突きつけられるようで。
「そんな情報、どこにもないですよ」
そう言いながら海棠が椎名を見る。
椎名は顔を向けないまま「俺に聞くな」と言うだけだった。
しばらく海棠は考える。
死ぬ直前死者が何を考えたかなんてことは情報として上がってこない。
そんなものは分からないし、そこまで調べていたら体も時間もいくらあっても足りない。
しかし死者本人がそのことをわざわざ口にしたということは、そこに死者の強い思いがあるのではないだろうか。
胡蝶が時間を持て余し始めた頃、海棠がポツリと口を開く。
「情報局としてこんな事を言うのは不本意なんですけど」と前置きをして話し始めた。
「もし死者の、つまり今回は滝川富雄の現世に留まるほどの強い思いが死後に生じたとしたらどうですか」
「死後に……ですか?」
「はい。正確には死ぬ直前と死者として目覚めたことで」
「そんなことあり得るんですか?」
「分かりません。あくまで仮説です」
情報局として仮説で物事を進めるのも不本意だが、海棠にはある程度の自信はあった。
「もし滝川富雄が死神の存在を認識したゆえに今回のことが生じてるとしたら」
「おっさんが見たのは本当に死神だったって言うのか?」
「分かりません。たぶん違うでしょう。しかしここで重要なのは、死神がいるかどうかではなく、滝川富雄が死神は存在すると思ったところ」
「そういえば富雄さんは一番最初に私たちが死神なのかと確認してきました」
「そうですか」
海棠は自分の考えを確信に変える。
しかし死神を恐れるなら、現世に留まっていないで輪廻の輪に帰った方がいいのではないか。
「あ、娘さん」
「そう。滝川富雄は娘のことが心配なんです。今ではなく、亡くなったあとの娘が」
海棠はパソコンを操作して今の娘の様子を画面に映す。
規定違反ではないが滅多にしない。
滝川美奈子は病室ではなくICU(集中治療室)にいた。
身体障害に伴う病気が悪化したのかもしれない。
滝川富雄は事故に会う直前、考え事をしていたと言っていた。
もしかしたら娘がそう長くないことを知っていたのかもしれない。
でもまさか自分が先に死ぬとは思っていなかっただろう。
突然の様々な状況の変化が重なって、滝川富雄に死神などというありえないものを見せた。
そしてそこに現れた「葬儀屋」。
死神の存在を確信させるには十分だっただろう。
椎名がそれに乗っかったのも悪かったのかもしれない。
そして死後、現世に留まった自分ともうすぐ死のうとしている娘。
『世界に未練があってここに居続けたとしたら、私はどうなりますか?』
滝川富雄はそう聞いた。
これは自分のことではなく、娘の事を思っていたのだろう。
娘がそうなったらどうなるか。
なぜここで素直に娘の事を言わなかったのかは分からないが、大筋としてはこの考え方で合っているはずだ。
「ありがとうございます!これで富雄さんを助けられそうです!」
胡蝶に深々と頭を下げられて、海棠は改めて自分がかなり喋っていたことに気づいた。
普段の海棠はこんなに喋る方ではない。
ただ情報局としての意地があったのかもしれない。
もしくは胡蝶の思いに触発されたか。胡蝶の前ではなんとなくしゃべりやすい。
胡蝶に出会った死者はこんな気持ちなのかもしれない。
まったく同業者に対しても「葬儀屋」の能力を使わないで欲しいと、海棠はそんなことを考えながら「あとはあなたたちの仕事ね」と言って視線を外し、会話を終了させた。
隣に氷室がいなくて本当に良かったと思った。
「これで滝川富雄さんを助けられるかもだね、椎名君」
自分たちのフロアに戻るエレベーターの中で胡蝶が話しかけてきた。
嬉しいような安心したような顔だ。
今回も胡蝶の働きは見事だった。
不測の事態は生じたもののそれに冷静に対応し、海棠と正確な情報を探り当て、解決に向かっている。
出会った頃は椎名を見ただけで泣き出しそうだった小娘が今では立派な「葬儀屋」だ。
「嬉しそうだな」
椎名が呟くように言う。
「え?もちろん嬉しいよ。まだ分からないけど、富雄さんを苦しめてるものから解放できるかもしれないんだよ」
胡蝶は自分の胸の前で握り拳を作る。
「今回はちょっと大変だったけど、まぁ私も成長したってことかな!」
胡蝶が自慢げに言う。
胡蝶もそれなりに現場を経験してきた。
今回みたいな難問を解決したこともある。
しかし、と椎名は思う。
胡蝶の中で一番大きな出来事は椎名の暴走だろう。
死んでまで殺人現場の有様を見せられた胡蝶。
精神が崩壊してもおかしくない。
現にそうなった奴もいる。
しかし胡蝶はそれを受け止め、自分の中で糧とした。
問題に動じない心、全てを受け入れる心。
あの出来事でお互い傷を負ったが、胡蝶はそれを踏み台にして成長した。
椎名はただそれに躓いて倒れただけなのだろうか。
「もう。また椎名君、私のこと無視して……」
その胡蝶の愚痴も聞かないまま椎名は先にエレベーターを降りた。
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