∴ こさぢさんへ相互御礼




「私達天界は、君の手助けをすることは出来ないんだ。それがどんなことであっても」

静かな空間で、軽やかな声が響いた。
不本意にも聞き慣れた(いえ、相手には失礼ですが)その声は、珍しく何かを憐れむような響きで、何故か切なくなる。

「すまないね、玄奘」
「………いえ、」

そして、やけに真剣な表情で謝られるから、逆に居たたまれなくなってしまうのだけど、さすがにそれを口にする事ははばかれて、小さく返事をすることしか出来なかった。

規模的には小さな洞窟。けれども薄暗く光の差し込まない洞窟の奥と、剥き出しの岩肌。たまに唸る風の音が何か別のものに聞こえて僅かに不安を煽る。

そしてその洞窟の中にいるのは私と、天界の仙人である顕聖二郎真君。性格がほんの少し(?)他の人間より悪戯好きという仙人様は、外の様子を一瞥して、小さく息を吐いた。

「というかさすがの私も、様子を見に降りてきたら君が仲間とはぐれた上に雨にあって洞窟に逃げ込んでいた、なんて状況になってるとは思わなかったよ」
「も、申し訳ありません……」

洞窟の外は雨。しかも土砂降り。
現状は真君が今説明された通りで、本当になんと言えばいいか分からず、ただうなだれるしかなかった。




「いやいや。本当に退屈しないよねえ、君は」
「褒められてる気がしないのですが…」
「褒めてるんだよ?こうも無意識に私の機嫌を良く出来るなんて、才能かもね」
(全く嬉しくないです…真君)

仲間達とはぐれてどうしようかと思っていた時に突然降り出した雨を凌ぐため、近くにあった洞窟に逃げ込んだ数分後。二郎真君はいつものように羽を降らせて現れた。
近くに悟空達がいないことにすぐに気付いた真君に経緯を説明したら、呆れと笑いを含んだ慈愛の視線を向けられて、自分の方向感覚の悪さを恨めしく思う。

「しかし、冗談じゃなくこの状況はどうにも出来ないな。君を助け導くことは、私達にとって禁忌だからね。私としては何とかしてあげたいけれど」
「いえ、そのお心遣いだけでも十分です。それに、こんなことで仙の方の手をわずらわせることも出来ません」
「君は真面目だねえ、玄奘。まあ手助けは出来ないけど、悟空達が来るまで一緒にいてあげることは出来るよ」
「あ、ありがとうございます」

実際心細いのは確かで、真君がそばにいてくれるだけでも十分ありがたい。

(たぶん、遊ばれるのでしょうけど)

そもそも穏やかな時を過ごすような相手ではなさそうだ。ここはひとつ、からかわれる覚悟を決めましょう!と決意した時、

「楊漸様!また仕事放って地上界に降りてるんですか!」
「……え、」
「おや、木叉」

神経質そうに眉をしかめた、真君の部下である木叉様が現れた。

「ん?玄奘か。すまないな、また楊漸様が迷惑をかけて」
「酷いなあ、木叉。私は玄奘のためにここにいるのに」
「何言ってるんですか。貴方の行動は大抵迷惑に繋がるんです」
「あ、あのっ、木叉様違うんです!」

真君に相変わらず容赦ない一言を浴びせる木叉様に、今回だけは違うことの説明と、それに至る経緯を、この後数十分に渡って説明することになった。




「…そうか。事情は分かった」
「申し訳ありません…、私が修行不足なばかりに…」
「いや。こんなことでもないと楊漸様が他人の役に立つことはないだろう。君が気にすることじゃない」
「さり気なく酷くないかい、木叉?」
「本当のことですから」

先ほどから木叉様にずばずば言われている真君は、面白そうに笑っている。暗に木叉様が皮肉を言っているのを分かっていて、楽しんでいるのだろう。木叉様は小さくため息をついていた。

「しかしこの雨は暫く止みそうにないかもしれない。雲は分厚いし色も濃い。恐らくあと数時間はこのままだろうな」
「そ、そうなのですか……っくしゅ!」

木叉様の言葉に、仲間達はどうしているだろうと心配した矢先、くしゃみが出てしまった。本降りになる前に逃げ込んだとはいえ、服は濡れていたし、火も起こせないから体が冷えてしまったらしい。

「大丈夫か、玄奘」
「はい、少し体が冷えたみたいで…」
「おや、それはいけない。私が暖めてあげようか」
「は?」

にこやかに、さらっと言い放った真君の一言に一瞬思考が停止した。どういう意味かと真君の方を向けば両手を広げている。
え、ええと、つまり?

「っじ、冗談です、よね…?」
「本気。ほら、羽もあるし暖かいよ?」
「そっ、そういう問題ではなくて…!!」
「大事な三蔵法師に風邪を引かせたとあったら大変だ。遠慮はいらないよ」

笑顔でおいでおいで、と動作する真君に、どうしていいか困惑していると、木叉様が間に入ってきた。

「……こんな時にまで冗談は止めてください、楊漸様」

右手を横に広げて、まるで真君と私を遮るように立ち、私に背を向けているせいで木叉様の表情は確認出来なかったけれど、少し声が低くなったような気がする。

「うん?結構本気なのだけど。どうしてそんなに怒るんだい?木叉」
「貴方の冗談が過ぎるからです」
「ふふ、それだけ?」
「……それだけです」
「あ、あの?」

何か不穏な空気が漂っているような?
良く分からない状況に更に困惑していると、木叉様が真君から遠ざけるように私を奥へと連れて行く。
壁際まで寄ったところで、すとんと座らされた。

「ここなら風もあまり来ない。…楊漸様の冗談は聞き流しておいていいから、このまま待っていてくれ。今火を起こす準備をするから」
「いえ、そんな…木叉様にそのようなことを…」

止める間もなく木叉様はてきぱきと行動を起こし始めた。どうしていいものかと真君に視線を向ければ、なにか愉快そうな笑みを浮かべている。

「ふうん?なるほどねえ……ふふ」

しかし良く見れば笑顔のはずの真君も、目が笑っていないように見えた。

(?…何なのでしょう?)



その後、木叉様が起こしてくれた火で暖を取りながら、真君にからかわれる時間を数時間耐えて仲間達と合流するまで、三人で小さな洞窟の中、話をすることになった。
時々真君と木叉様の間に微妙な空気が流れていた気がしたけれど、たぶん気のせいだろう。


それはある雨の日のこと。
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「mm2」のこさぢさんへ、相互御礼に捧げます!真玄木という、欲望に走った消化内容ですみません(^p^)
自分でもびっくりするぐらい楽しかった、です\(^p^)/←←←←
真玄木…イイ!!(゜∀゜)!!
こさぢさん、相互本当にありがとうございました^^*これからもよろしくお願いします(*´`*)あ、返品可ですので(^p^)


※こさぢさん以外のお持ち帰りはご遠慮下さい。





091016

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