∴ 駿河さんから相互記念文


相反する感情




白い羽を撒き散らしながら、ひとりの仙人―――二郎真君が古びた宿屋の一室に舞い降りた。にこやかな笑顔の裏にわずかな狂気を見え隠れさせている青年は、足音ひとつさせずに部屋の中にある寝台へと近づいた。
すやすやと寝息をたてながら深い眠りの底に落ちている少女が、そこにいた。
何一つ思い悩むことなどないような、晴れやかな寝顔。少し疲れも見えるが、目標に近づいてきているという充実感と、仲間との絆からか、その表情に曇りはない。
それを見て、まるで苦虫を噛み潰すかのような苦渋の表情を見せたのは舞い降りた二郎真君だった。いくつもの感情が入り混じったような、ひどく歪んだ笑みを浮かべている。
なぜ、どうして、なんで。
いくつもの疑問視が彼の心を占めていた。なぜ自分はずべて奪われ、ただただ永劫の孤独を味わっているというのに、彼女はこんなにも安らかな寝顔で眠ることが出来るのか。
眠りのふちで見る夢といえば、大切だった友との別れと一生苦しんで苦しんで這い蹲ればいいと思う者の姿だけ。安らかに眠ることなどほとんどない自分とは対照的な彼女を、ここで消してしまいたいとさえ、彼は思う。

「金禅子…いや、今は、玄奘か」

悟空をからかうという名目で三蔵一行、つまりは玄奘と悟空の動向を探る二郎真君は、いつのまにか彼女を金禅子としてではなく玄奘としてみるようになっていた。
もちろん最初から彼女は金禅子ではなく、玄奘だったのだが、ずっと金禅子として見てきた。そうすることで彼女を復讐の対象としてみてきたのだ。
悟空と玄奘が距離を近づけるたび、煮えくり返るような怒りに震えた。すべてを燃やし尽くす業火のように、復讐という火が二郎真君の心を燃やしてきた。燃やして燃やして、心など復讐でしか保てなくなっていた。
時折ふと、なぜ復讐しようと思っているのか考えることもあった。
悟空が聖天大聖としての記憶を持ち、まるでかつての友と同じように話しかけてくれるたびに。彼女が、まるで仲間のように扱ってくれるたびに。なんだかんだいって、三蔵一行が二郎真君を受け入れてくれるたびに。

(二郎真君は、ほんとうに悟空が好きなのですね)
(では、また)

けれどそのたびに二郎真君の心はちりちりと燃え、復讐の火は日増しに強くなる。彼らがそうして受け入れてくれるたびに、悟空とかつての昔話をするたびに、優しい記憶が二郎真君の心を蝕むのである。

「げん、じょ う」

それなのに、いつの間に彼女を玄奘として見るようになったのだろうか。
復讐の対象である金禅子としてではなく、ただの玄奘として見る自分がいることに気付いたとき、二郎真君は愕然とした。ぬるま湯につかるような気持ちが自分の中にあることに気付いてしまったからだ。
優しく柔らかいまなざしに、いつのまにか近づきすぎていた。

「…きみは、私に甘い」

甘すぎるのだと呟く。伸ばした手が玄奘の頬に触れ、玄奘が身じろぎした。それでも二郎真君は玄奘の頬から手を離すことはなく、人間の人間としての温かみに、目を細めた。
復讐でも、哀しみでも、煮えたぎるような怒りでもない。
 確かな愛情を含んだまなざしと、指先。けれどそれでも、奥底の憎しみは二郎真君の心を燃やす。跡形もなく燃やし尽くす。

「ん…じろ、う、しんく…?」
「っ…!」
「…おかえり、なさ い…」

おかしな発言である。二郎真君は彼女の仲間ではなく、ここに帰ってくる身ではない。決しておかえりなさいといわれる立場ではないのだから。ただの監視者なのだと、彼女だってわかっているはずだ。
おそらく寺に居たときの習慣が残っていて、出てきた言葉なのだろう。子どもに対するものと同じ発言であって、そこに深い意味などない。

「…きみは、ほんとうに、私に甘いね」
「…しん、く」

もうそれ以上喋らないでくれというように、人差し指で彼女の唇をふさぐ。お願いだからそれ以上私を甘やかさないでくれと言うように。
じりじり燃える炎が消えることなど決してないのだから、二郎真君が復讐を諦めることなどない。苦しんで苦しんで、一生自分に縛られればいいと思っているのだから。
今すぐここで消し去ってしまいたいと思ったことも少なくない。
立ち上がり、寝顔を見る。安らかな表情に、ふつふつと怒りが湧き上がる。けれどどこか別の場所で、大事にしたいと思っているのも確かなのだ。

「私はきみに、やさしくできないんだ」

やさしくしたいと、そう思っていても。
そう口に出すことはなかったけれど、ふわりと消え去った後の宿屋はどこか哀しい空気を内包していた。







「123.」の駿河さんから相互記念に頂きました\(^o^)/真玄、だぜ!
もうきゅんきゅんするしかありませんこの真玄!真君が、夜這いに…!!(※黙って)駿河さんの文章に一目惚れしたわたしには本当に勿体無い素敵小説です(*´p`*)
隊長、わたしどこまでもついていきます!

駿河さん、素敵な小説ありがとうございました!\(*´∀`*)/
これからも仲良くしてやってください^^*


※こちらの作品を持ち帰るのはご遠慮下さい。





091015

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