切実すぎて苦しくなる。
由緒正しいエバンズ家の名の代わりにお金がほしい。そうすればお父様とお母様は喧嘩をせずに済むはずだし、おじい様やおばあ様は私に笑顔を向けてくれるに違いない。自分を磨き、コネを作って、誰にだって愛想よく。私はお金持ちと結婚することだけを考えて、この7年間をホグワーツで暮らしてきた。
恋を知るまでは。
ああ、どうして落ちてしまったのだろう。苦しさを増やすだけのこんな気持ち、捨ててしまいたい。
初めてまともに会話したのは、お互いNEWT学年として将来へ向けピリピリし始めていた頃。
息抜きを兼ねて歩いた湖の畔で彼を見つけた。使い古した羽根ペンに黒ずんだバッグ。伸びた背に合わなくなったローブを着続ける姿はお金持ちとは程遠い。それでも将来彼が大金持ちになる可能性はゼロじゃない。今良い顔をしておけば、何かあったときに役に立つかもしれない。
そんな下心を隠して、私は彼へと近付いた。
『僕にその顔を向けるな。ヘラヘラと面白くもないのに笑って、見せられるこっちが不快だ』
『そんな、酷いこと……』
『僕は君にとって利用価値のある人間じゃない。だから構うな』
彼は初めて私の心を見透かした。ただそれだけ。自分がこんなにも容易く恋に落ちるとは思いもしなかった。それから私は彼に煙たがられながらも、度々話しに湖へと出掛けていた。
「また来たのか、リリー。僕には構う必要ないと言っただろう。君の求めるものを何一つ持ってない」
私がここへ来る理由が他に出来てしまったことを彼は知らない。
「でも卒業も近いし、あまり接点もないから、これがゆっくり話せる最後の機会かと思って」
「話したいことでもあるのか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど」
「愛想を振り撒き疲れたならここにいればいい。僕は寮へ戻る」
最後かもしれないと言ったのに、彼は平気で立ち去れてしまう。私たちの心にある大きな隙間はいつまで経っても埋められない。
「ねぇ、セブルス」
「何だ?」
「今までありがとう」
「僕は何もしてない。それに卒業がすべての別れではないはずだ。――手紙が来るようなら受け取ってやらんこともない」
「うん、送る」
私は笑顔で嘘をついた。彼の背が遠ざかって、振っていた手をダラリと下ろす。張り付けた笑顔は固まり剥がれないまま。
卒業を機に、私は他の男と結婚する。けれど彼のことを、
それでも愛している。
Special Thanks
you
(2019.3.4)