その唇に触れたい。
彼の乾燥した薄いその唇に。私は血色の悪いその場所へ、そっと手を伸ばした。
「どうした?」
机上の羊皮紙から視線を上げて、スネイプがリリーを窺う。しかし彼女は首を横に振り、何でもないのだと笑みを浮かべた。
「気にしないで。まだ仕事の途中でしょ?」
とは言われたものの。スネイプの瞳は彼女の顔から手へと移される。彼へと真っ直ぐ伸びたその指先が、こうして会話している最中も時折スネイプの唇をつついていた。
「これでは集中できん」
抗議の滲む言葉とは裏腹に、彼は身を引こうこともせず、されるがまま彼女の体温を受け入れていた。人差し指が端から中央へと滑り、潰すように唇を押さえつけ、添えた中指は割り入るように唇の奥へと伸ばされる。彼が食むようにその唇へ指を迎えれば、彼女は声を忍ばせ笑った。
「この仕事は今日中のもの?」
「いや、明日でいい。……分かって誘っているだろう」
「さあ?」と微笑むリリーが指を引いた。スネイプは握りしめたままの羽根ペンをスタンドへと追いやり立ち上がる。邪魔な事務机を足早に回り込むと彼女の腰を強く抱き寄せた。
スネイプの空いた手がリリーの唇を強くなぞる。
「こんなもの、君には必要ない」
そこに引かれた赤色を親指へと移し、彼はようやく口付けた。
「リリー、今何を考えてる?」
「こういう時は大体あなたのこと」
「大体?」
「あとは明日の朝のことを考えてる」
二度目のキスは、ほんのりと温まった唇で。甘い夜を告げる一度目の
少し冷たい温度が私の幸せ。
Special Thanks
you
(2019.3.3)