手っ取り早い方法が、あるにはある。
彼女に直接聞いてしまえばいい。
『私を愛しているか?』
そうすれば、彼女は答えることだろう。
『もちろん愛している』
だがその問答には意味がない。彼女はそう答えるしかないのだ。心ではどう思っていても。現に彼女は私に好意を示す。たが決して媚びることはなかった。ただ彼女は自らのすべてを差し出し、この2か月、私に何一つ抗うことなくここにいる。
ここ、私の生家に隠された、地下室に。
コツ、コツ、と彼女のために取り付けた真鍮のドアノッカーを叩き、入室を知らせる。返事はないが、それは大して重要なことではない。
「リリー、入るぞ」
鍵のない扉。開けることができないのは彼女のみ。しかしいつ来ても、無理矢理抉じ開けようとした形跡はなかった。
「ん……セブルス?」
部屋の奥に設えたベッドで身動ぐ影が、身体を起こして掠れた喉を震わせた。
「また寝ていたのか。新しい本を用意したばかりだろう」
「セブルスが選ぶのは学術書ばかり。たまにはマグルの小説も読みたいです」
「気が向けばな」
彼女は素足で石畳に立つと、大きく伸びをする。右へ、左へ、身体を捻り、最後に首を大きく回した。
「今何時ですか?朝?夜?」
「夕方だ。カーテンは開けておけと言っただろう。外を見れば大方の時間は判断がつく」
そう言いながら、ベッドそばの壁に掛かるカーテンを左右へ引いた。
「これ、好きじゃないんです。窓じゃないから」
「大広間の天井はよく見上げていただろう」
「大広間と違ってここは狭いし、風も、草木の匂いもありません」
自分の手で彼女をここへ連れてきておいて、チクリと胸を刺す何かが痛い。校庭を駆ける彼女を見るのは、私にとっても心安らぐ瞬間だった。太陽に照らされた笑顔は、何ものにも代え難い。
「セブルス」
不意に、彼女が甘える声色で私を呼んだ。ベッドへ腰かけた彼女に吸い寄せられるように一歩近づく。彼女は両手を広げ、私を招いた。互いの距離がないに等しくなると、その両手で私を抱き寄せ、ローブへと顔を埋める。大きな呼吸に合わせ、華奢な肩が上下した。
「ローブにハナハッカを溢したでしょう?あとは……セブルスの匂い。今日はご自分で薬草の採集に行かれたんですね」
「ハッキリ汗臭いと言え」
「臭くなんてありませんよ。今日1日のセブルスの様子が分かって、私は好きです」
顔を離した彼女はとても美しい笑みを見せた。
「次は一緒に行くか?」
「え……?」
「外へ、一緒に」
杖を振り、現れた30センチほどの羊皮紙を彼女へと手渡した。そこに記された誓約を、彼女の瞳が足早に追う。
「これにサインすれば、外に出ても良いんですか?」
「やはり、出たいのか」
「出たいです。だってもう夏は終わりに近づいているはず。9月になれば、セブルスは私のいないホグワーツへ行ってしまう」
「ね?」と見上げる彼女の表情は変幻自在。眉尻を下げ、捨てられることに怯えるような揺れる瞳に、囚われずにいる人間がいるだろうか。
「この誓いは心を暴く。破れば、君の身に不幸が訪れるだろう。それでも、
試してみる勇気はあるかね?」
Special Thanks
you
(2019.3.1)