私は美人じゃないけれど


私は美人じゃないけれど

それなりに気は使っているから見れないほどではないはずだ。もう少し鼻が低ければ良いなとか、たれ目って可愛いなとか、あと10センチ背が低ければ世界は変わるのかなとか。思ったりはするけれど。


「可愛くないって何よ」


たった今、私をよく知りもしない男にそう言われた。容姿に言ったんじゃないことくらいは分かってる。悲しみは湧いてこない。あるのはただ、腹立たしさ。こんなことならお気に入りの服なんて着てこなければ良かった。折角のワクワクが台無し。

足取りは、知らず知らず重くなっていった。


「道のど真ん中で立ち止まるな。迷惑だ」


トン、と踵を靴先で小突かれる。悪いのは私なのだけど、分かりやすくムッとして、振り返った。

そこにいたのは、かつての恩師。


「あー!スネイプ先生!お久しぶりです、お元気でした?私、昨年卒業したリリー・エバンズです!」

「周囲の迷惑だ。退け」


私を抜かしてスタスタと歩いて行った彼のあとを雛鳥のように付いていく。50メートルほど進んで彼はため息をついた。そして適当な角を曲がると遅れて曲がった私を待ち伏せる。


「どこまで付いてくる気だ?」

「あー……どこまでも?今日の予定が消えちゃったんで、暇してるんですよ。困りごととかありませんか?」

「今、元教え子に付き纏われて困っている」

「それは大変。きっと先生の優しさに付け込もうとしてるんですね」


先生が呆れた表情をしたのは明らかで。まだまだ無駄な応酬を続ける気だったのに、彼は時計を取り出し確認すると、私のスカートの裾を指差した。


「汚れるぞ」

「可愛いでしょう?」


スカートを少し摘まんでクルリと回る。そしてドレスを纏っているかのようにお辞儀した。


「ここがマグルの街なら上手く溶け込んでいたんだろう。マグル学は無駄ではなかったな」

「でももう良いんです、こんな服。地面に這いつくばってパフスケインの毛だって集められますよ」

「その必要はない。君の休日は君のものだ。誰が何と言おうと侵されることはない」

「あ。もしかして『可愛くない』って愚痴、聞いてました?」

「迷惑な独り言だ」

「先生はどう思います?私のこと。可愛い?可愛くない?」


可愛くない。或いは馬鹿馬鹿しい、と即答されると思っていた。けれど先生は顎に手をやって思案顔。加えて、じっとこちらを見つめるものだから居心地はあまりよくない。


「可愛い。――レッドキャップの次くらいにな」

「よりによってレッドキャップの次ですか!?」


ドキリとしたのは一瞬で、彼の意地悪な笑みは在学中にも幾度となく見かけた。昔はそれがたまらなく不安で苦手だったのに、今日の表情は何だかとても魅力的。


「我輩は多忙だ。もう付いてくるな。次は撒く」


そう宣言をして、先生はまた歩き出す。大通りの人混みに紛れ、あっという間に姿を見失った。ほんの数分の、偶然の再開。きっと気紛れな、先生の言葉。それでも、また会いたいと思うには十分だった。生徒以外なら別の顔を見せてくれるのかもしれない。そう期待を乗せて。

今度の独り言を彼が聞いたら何て言うだろうか。


「先生って、意外と

優しいんですね」

Special Thanks
you
(2019.2.28)


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