パンケーキは甘いのに、
甘いはずなのに。どうして私の作ったこれは酸っぱい味がするのだろう。見た目の良さに騙された大きな一口を砂糖たっぷりのコーヒーと共にやっとのことで胃袋へ追いやった。
「ごめんなさい、失敗しちゃいました」
杖の一振りで二人分のパンケーキをなかったことにする。向かいに座ってコーヒーを飲む彼のパンケーキも一口欠けていた。
「気にするな。機会はこれから何度でもある」
その第一回目が今日なのに。朝は寝坊してセブルスが用意してくれた。昼は各々用事があったから、小腹の空く時間には何か用意したかったのに。唯一成功に見えたパンケーキもダメだったなんて。
「こんなに家事の呪文が下手だとは思いませんでした。マグルを見習うべき域です。この家の台所なら使えますし」
「もう諦めたのか?」
「いいえ!でもやっぱり食べるなら美味しいものが良いでしょう?酸っぱいパンケーキはこりごりです」
「君より先に私の料理の腕が上がるかもしれんな」
彼の口元が意地悪に上がった。
「その時は教えてください」
「ホグワーツにいた頃のようにか?」
「よろしくお願いします、先生」
「君の教師は辞めた」
カップを持ち上げる彼の指には私とお揃いの誓いが嵌められている。視線に気づくと彼は見せつけるように手を振った。
「諦めるならいつでも言え。私が代わる」
「セブルスも言ってください。料理下手な私に愛想が尽きたら」
「そうしよう。そんな時がくればの話だが」
彼が椅子を引いてこの時間の終わりを告げる。夕食こそはと決意を固める私の肩に彼の手が乗った。
「旨い料理と不味い料理なら、誰もが旨い料理を選ぶだろう。だがそこに君の作った料理という選択肢が加われば、私は迷わずそれを選ぶ」
彼の言葉にはにかんで目を閉じる。
二人っきりのコーヒータイム、
最後に残ったのは苦いコーヒーの味だった。
Special Thanks
愛 様
(2018.11.15)