私のキスで魔法を解いてあげる


「私のキスで魔法を解いてあげる。

だから、ね。おいで、キメラさん。こわくないよ」


逃げ出したとケトルバーンから報告の出ていた魔法生物。それをスネイプが見つけたのは、最悪な場面と共にだった。唸るキメラに近寄りながら、無防備に両手を差し出す女子生徒が一人。


「プロテゴ(護れ)!」


杖を抜き、呪文を唱え、一人と一体の間へ走る。スネイプはそのすべてを瞬時にこなし、キメラが逃げ出すのを見ると、ふっと力を抜いた。芝に両膝を付きじくじくと痛む肩へと触れる。


「マ、マダム・ポンフリーを呼んできます!」

「あぁ、そうしてくれ」




幸い怪我は一晩で完治するものだった。手当てを終えた今、医務室にいる必要もない。と、スネイプは思う。しかし彼の学生時代から現役を貫くこの部屋の主に凄まれれば、従う他ない。


「ごめんなさい、スネイプ先生」


グズグズと鼻を啜りながら、ベッドサイドに寄り添う女子生徒が頭を垂れる。


「我輩でさえ魔法生物にはこの様だ。これに懲りたら二度とキメラには近付くな」

「はい、先生」

「他の危険な生物にもだ。珍妙な企みは止めろ」


しかし先程のような従順な返事はなかった。


「おい、エバンズッ――」


彼女へ伸ばそうとした腕が肩の激痛に阻まれる。洩れたスネイプの呻きに反応した彼女は目を見開き、またじわりと瞳を滲ませた。


「ごめんなさい、スネイプ先生……」

「謝罪は既に聞いた」


スネイプは鎮まっていく痛みに息を吐き、無傷の肩をベッドサイドテーブルへと回す。そこから真新しいタオルを掴むと、未だ涙の止まる気配がないリリーへ投げた。


「居座られても迷惑だ。早く寮へ戻れ」

「……先生」


白いタオルを握りしめ、リリーが呟く。


「何だ」

「私、誰かの役に立ちたかったんです。でも勉強は、あまり得意じゃなくて。だから大好きな物語の真似事で、呪いが解けたらって……」

「キメラに呪いはかかっていない。トロールやドラゴンにもだ」

「そう、ですよね……ごめんなさい」

「ならば私にかかったものを解いて見せろ」

「え、先生に、呪いが?でもそんな、私なんかじゃ――」

「役に立ちたいのだろう?期限は――

最後の1枚の薔薇の花びらが落ちる前に」

Special Thanks
you
(2019.2.5)


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