「そんな男はやめて、私にしておけ」
静寂が支配する真夜中。林の小道を歩く女が両手を広げ、舞台女優さながらに声を張り上げた。宙に浮かぶ灯りをスポットライトに、その手のままクルリと後ろへ身体を向ける。無言で眉間にシワを寄せた男にクスリと笑った。
「おーやおや、怖い顔。セブルスの心を代弁しただけなのにさ」
「そんなことを思った覚えはない」
「本当かなぁ?私は開心術士ではないけれど、君の心なら読める気がする」
手を後ろに組み、リリーが一歩後ろへ足を引いた。そしてまるで背中に目でも付けているかのような足取りで歩き続ける。
「今日はリリーの結婚式か。数時間後には一層着飾った彼女が真っ赤な道を歩いてる」
「何故それを……」
「招待状が来てたから」
「招待されるはずがない」
言い切るスネイプにリリーがニヤリと笑みを深める。
「自分でさえ招待されなかったのに、って?」
「だ、れがっそんなことを。我々の縁は既に切れている」
「そう、切れた。可哀想なセブルス」
頬へ伸びてくる彼女の手を払い除け、スネイプは歩幅を大きくする。隣へ並ぶとリリーも彼に会わせ前を向いた。そしておもむろにマントの内へと右手を入れて、ガラスの擦れる音を響かせながら酒瓶を取り出す。
「まぁまぁ、呑みなよ。介抱なら引き受けるからさ」
スネイプが差し出された瓶の蓋を撫でると軽快な音と共に栓が飛ぶ。
「なんなら泣いとく?」
「必要ない」
リリーがコツリとスネイプの瓶へ乾杯の合図を鳴らした。躊躇うことなく呷る彼女を横目で確認し、彼もまた瓶に口付ける。ふ、と吐いた息が闇に紛れていった。
「リリー」
「何?」
「リリー」
「だから何?もう酔っちゃった?」
「どうやらな」
「いいよ、いいよ。好きなだけ潰れちゃえ。こんな日に付き合えるのは私くらいなんだろうし」
二人を照らす専用の月に手を翳し、リリーは内に刻まれた魔法契約に目を細める。彼の心を決して他言しないと誓った証。そんな彼女の様子に、スネイプはまた瓶を呷る。
「本当に酔いたいなら、まだ開いてるパブを知ってる」
「介抱してもらえるそうだからな」
「まぁ今日くらいは仕方ないさ」
二人の影が重なって、バチンと乾いた音を残す。
付かず離れず程よい距離でそばにいてくれる彼女へ向ける言葉を、彼は
きっと明日も、言わずに終わる。
Special Thanks
you
(2019.2.2)