仲直りの仕方


仲直りの仕方。

時と場合によるとは言え、正直になるというのは有効な手段だろう。拗れた原因である自分を晒す。私の苦手とする行為ではあるが、致し方ない。喧嘩と言えるほどの白熱したやり取りではないものの、少し引っ掛かる終え方をしてしまったのは事実だ。

スネイプは羽根ペンにインクを吸わせ、小さな羊皮紙の欠片を引き寄せる。ペン先を紙へ乗せる直前で、ただの羊皮紙をシンプルなカードへと変えた。

したためたのは、


『今夜0時、君の知りたかったものを見せる』




「お招きありがとう、セブルス。とうとうあなたの秘密を覗けるのね」


0時きっかりにリリーはスネイプの部屋をノックした。彼女を中へ通すことなく彼が案内したのは、ざわざわと芝が夜風に揺れる校庭。春の終わりの肌寒い外に、職員二人は許された自由を横切って行く。


「森へ入る。杖は出しておけ」


ニコニコと笑顔の絶えないリリーとは対照的に、スネイプはため息を溢した。風からマントを取り上げて、彼がランタンを翳したのは森深く。リリーは鼻唄混じりに杖を出し、溶け消えてしまいそうな漆黒の後ろ姿を追った。


「嬉しいけど、わざわざこんな夜中に呼ぶ必要はあった?」

「私の用に合わせただけだ」

「ふぅん。生徒に見られたくないことをしてるのかと思った」

「先に言っておくが、これも仕事の一環だ」


樫やイチイを何十本も通りすぎ、茨に沿って数百メートルを移動する。突き当たりに一際大きな樫が現れて、スネイプはようやく足を止めた。


「ここだ」

「ここ?」


リリーがただの巨木だと思ったものには扉が存在した。木の皮を捲るようにそれを開け、彼は慣れた様子で敷居を跨ぐ。先は階段になっており、トントンと木の軽やかな音を響かせ下っていけば、辿り着いたのは直径5メートルほどの丸い空間だった。灯った松明に浮かび上がる、拡張された虚のような壁。そこに所狭しと棚が作られ、中身の詰まった瓶が並んでいる。天井からは薬草が何束もぶら下げられていた。

湿った土の匂いに鼻を揺らし、リリーからは感嘆の声が湧き出た。


「秘密基地ね!」

「薬材料の保管庫兼作業場だ」


暖炉はないが風もないここはほんのりと暖かい。スネイプはマントを近くの丸椅子へと落とした。そして中央に設置された円形のテーブルへと大きな一歩で辿り着くと、リリーへ向き直る。


「秘密と言うほどのものはない。私は度々ここを利用している、それだけだ」

「私に黙っていた理由が見当たらないようだけど」

「言う必要がなかった。それを君が――」


話す二人の間をスイッと何かが横切った。キラキラと光を放つ鱗粉を残し羽ばたくそれは、テーブルへとついていたスネイプの右手に着地する。


「妖精ね。どこから入ってきたのかしら。それに、何か持ってるようだけど?」

「これは――」

「フラスコ?」


リリーはテーブルのそばでしゃがみ込み、妖精に視線を合わせた。小さなその生き物は何度かその場で羽を動かし、再び宙を舞っていく。二つ、三つ、数を増やした妖精たちがテーブルへ戻る度に調合器具が増えていく。リリーがスネイプを見上げると、彼はらしくなく目を泳がせ、妖精を観察している振りをしていた。

ポトリとまた机上に物が増える。リリーが天井を注視すると、そこには一枚葉のボウトラックルがぶら下がっていた。運んできたらしい小枝を追って、緑の体も落下する。鋭い指で小枝を拾うと、妖精の運んできた小刀のそばへと置き直した。


「セブルス?」

「……私が躾けたわけではない。いつの間にか出入りするようになっていた」


むっすりと口角を下げ、スネイプはローブのポケットへと手を入れた。そこから出てきたのは小さな袋。彼は慣れた手付きで中身を摘まみ出すと、一匹一匹小さな助手たちへと美味しい報酬を分け与えていく。欲張って何度もねだる個体へは無視をして、小競り合いにはため息をついた。

その光景にリリーの頬は次第に緩み、クスクスと声まで洩れる。


「昔母が読んでくれたマグルの絵本に、あなたみたいなプリンセスが出てきたのを思い出したわ」

「なっ、一緒にするな!」

「そうね、あなたはプリンスだもの。本物の、ね」


空になった小袋を乱暴にポケットへ突っ込んで、スネイプは袖口にぶら下がっていたボウトラックルを机上へ下ろした。


「からかうのは止めろ。だから君には知られたくなかった……」


気まずさを誤魔化し、スネイプは揃った調合器具へと手を伸ばした。必要なものも不要なものも一纏めに届いたテーブルがあっと言う間に片付いていく。


「私は知れて嬉しい。あなたが魔法生物と戯れるところなんて、そうそう見れるものではないし。無垢な生き物に好かれるのは素敵なことだもの」

「からかうなと言っただろう」


スネイプが故意に俯いて、前髪が大きく垂れた。


「あら、私はただ、王子様に惚れ直してるだけ」


スネイプのマントを拾い上げ、リリーが空いた丸椅子へと座る。じっと背を眺めていれば、モゾモゾと身動ぎをした彼がゆっくりと振り返った。その指先には妖精が腰掛けている。


「君の方が、すべてに好かれる」


ふわりと妖精が宙へ舞い、リリーの眼前でくるりと回る。その様子に微笑んで、彼女はスネイプの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「私はあなたに好かれていれば十分」

「……それはどうも。君には口で勝てる気がしない」


赤く染まる彼の頬に、リリーは笑みを濃くして目を閉じた。スネイプはやんわりと手で妖精を退け、彼女へとその身を寄せる。


「私も、君に好かれていれば十分だ」


何度か重ねた唇を離し、スネイプは素直な気持ちを言葉へ乗せた。

必要なのは、

たったこれだけのこと。

Special Thanks
you
(2019.1.29)


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