「好奇心は災いのもと。
そうご両親に教えてはもらえなかったのかね、ミス・エバンズ?」
「ごめんなさい、スネイプ先生」
引き吊る頬をランタンの下に晒し、リリーが一歩足を引く。トン、と背に当たる木の感触に更に頬を硬化させ、恐怖故に逸らせない視線を迫り来る教師へと向けていた。
ランタンの周りだけがぼんやりと森を照らす。遠くへ行くほど闇は濃く深くなっていった。スネイプの瞳もまた、底無しの黒。
「これに懲りたら私を尾行しようなどとは思わないことだ」
ドン、と森中に響きそうな勢いで、スネイプがリリーの頭上へ右手を付いた。彼女はヒッと声を上げて薄目から彼を覗く。そんな彼女のことなどお構いなしに、スネイプは限界までランタンを寄せ、ぐっと木の皮ごと右手を握った。
「何故森が禁じられているのか、身をもって知ることになるぞ」
開いた彼の手からは教科書にも載る毒虫が無惨な姿で零れていった。彼はもう二度と動くことのないその死骸を踏み潰し、血の通わない暗い目を足元へ向ける。
「この森にとって君は哀れな虫けらだ」
ゆっくりと弧を描くかさついた薄い唇が、ランタンのオレンジの灯りに浮き上がった。呼吸に合わせて僅かに上下するその光源は影を不気味に笑わせる。
「――大人しく我輩に守られていなければ、な」
瞳のその奥を覗くような視線がリリーに突き刺さる。見つめ返した黒い瞳にランタンの灯が映り込み、見たこともない輝きを纏っていた。
彼女の喉が、ゴクリと上下する。
ああ、もう逃げられない。
Special Thanks
you
(2019.1.28)