始まりと終わりというものはそれぞれいつもあっけない


始まりと終わりというものはそれぞれいつもあっけない。

パン、と手を打ったような軽さで始まり、カップを逆さにしたような潔さで終わる。

リリーと出会う少し前、私には共に遊んでいた少女がいた。彼女が何故スピナーズ・エンドにいたのか、今となっては分からない。家の前で蹲る私に、然程歳の変わらない彼女が声を掛けてきたことが始まり。


『私、リリー。あなたは?』

『セブルス』

『ねぇ、ここで何をしているの?』

『特に、何も。家にはいられないから……』

『ならあっちで遊びましょ!誰も住んでいない家があるの。今日から私たちの家よ!』


握られた手は初夏だというのにやけに冷たく、ゾクリと手を離してしまいたい衝動に駆られたことを覚えている。しかしその力強い手には同時に安心感も覚え、頭一つ分背の高い彼女についていこうと必死に足を動かした。


『リリー、君は一体何者?』

『私は私よ。いつまでもね!』


彼女は私に魔法界を教えてくれた。力を使うちょっとしたコツや、制御の仕方。母が私に渋っていたものを、彼女はすべて与えてくれた。


『今日でお別れよ、セブルス』

『そんな、リリー、急すぎる!』

『私、セブルスに出会って初めて人と話すのが楽しいと思えたわ。ありがとう!』

『ぼ、僕、僕も!またいつか――』

『ううん、もう会うことはないと思う。元気でね、バイバイ!』


本当に、それ以降会うことはなかった。足繁く通った廃墟にも、近くの町にも。思えば、私は彼女の名前以外何も知らなかった。名字さえも。彼女は多くを語ることで、自分を隠していたのかもしれない。

彼女を求め探し歩いた町の中で、リリーを見つけた。


そんなリリーが、今目の前にいる。

いや、飾られている。


「ルシウス、こちらは?」


数年の成長はあれど、間違えるはずがなかった。マルフォイ家の屋敷で控えめに飾られた額の中で、彼女は豪勢な椅子に腰掛け微動だにしない。記憶にある笑顔は一つもなく、すべてを消し去られたような無。


「あぁ、いとこだ。私としては外したいのだが、ナルシッサが嫌がる」

「彼女は今、どこに?」

「さてね。結婚したものの身体が弱い人間で、跡継ぎを生むこともなく若くして消えた。寿命が尽きる前にここを飛び出したままだ。留まっていれば長く生きられた可能性もあるというのに、今頃どこかで旅立っているだろう。何故聞く?」

「いや、似た人物を知っている気がしただけだ」

「リリーが、君と?それは人違いだ。君たちに接点などない。行くぞ、セブルス」


カツカツとステッキを床へ打ち鳴らし、ルシウスが肖像画に背を向けた。遠ざかる音を聞きながらもう一度仰ぎ見た絵画の中で、彼女が初めて首を動かす。真っ直ぐなその絵の具の瞳が、こちらを見た。


「リリー、君はいつまでも君であれたんだな」


にこりと彼女が微笑んだ。記憶そのものの笑顔。ぐっと心臓を掴まれ、引き寄せられる。

初恋は今までずっと息づいていたのだ。

Special Thanks
you
(2019.1.26)


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