東洋の短歌に、こんなのがある。
『忍ぶれど色に出でにけりわが恋は
ものや思ふと人の問ふまで』
みんなが素通りする階の廊下で、珍しくスネイプ先生を見つけた。窓から外を眺め何をするでもなく立ち尽くす姿は、いつもの先生からは想像がつかない。確かあそこからは校庭が見えるはず。
「まぁ、セブルス。こんなところで珍しい」
私のいる反対側からマクゴナガル先生が歩いてきた。授業終わりらしい本を抱えキビキビと動く姿とはチグハグの優しい声。
「校長に呼びつけられた」
「彼なら先ほどハグリッドの小屋へ行くと話していましたよ」
「いないと思えば……」
距離があっても分かるほど大袈裟なため息をついて、スネイプ先生はまた窓の外を眺める。
「何か見えますか?」
「いや、何も」
「気掛かりな生徒でもいるのですか?」
「……特には」
「そうですか」
マクゴナガル先生は含みのある言い方だった。
「ミネルバ――」
「何です?」
「いや、もう結構。我輩はこれで失礼する。用は自室より小屋がお好きなようですからな」
スネイプ先生がこちらを向いて、私は咄嗟に身体を柱へ隠した。しかし横を通るときには意味がなくなってしまう。先生はチラリともこちらを見ることなく闊歩していった。
「ミス・エバンズ、どうしたのです?」
少し間を置いて歩いてきたマクゴナガル先生は、私を見るなりチェック柄のハンカチを差し出してくれた。
「目にゴミが入ったみたいです」
作り笑いの拍子にまたひとつ頬を伝う。ハンカチは受け取らずに会釈だけをして、私の足は駆け出した。
私は知ってしまった。
私がスネイプ先生を見ていたように、先生も誰かを見ていた。生徒か、来客か、ここにいない誰かかもしれない。それでも確かなのは、私のいない場所だということ。
あぁ、初恋よ、
「さようなら」
Special Thanks
you
(2018.11.15)