絶対勝つ!
学生最後のクィディッチの試合。今日勝たねばいつ勝つというのか。「お前にキーパーが務まるわけがない」そう囁かれながらもこの3年間頑張ってきた。私の倍ほどはある体つきの男が投げるクアッフルを何度も止めて見せたし、ブラッジャーなんてじゃれてくる子猫と同じ。
「僕らがグリフィンドールのノロマ共に負けるはずがない!」
競技場の選手控え室で最後の円陣。キャプテンの気合いに選手全員が熱の籠った声で返す。
「スネイプ先生に優勝杯を!」
私の声にもみんなは強く頷いた。
「行くぞ!」
ピッチへと出ていく頼もしい背中たち。緑のユニフォームを誇って胸を張り、箒の柄を強く握る。
私たちは最高のチームだ!
とうに就寝時間の過ぎた夜。
スネイプはランプ片手に校庭を歩いていた。足取りの先にあるのはクィディッチ競技場。昼間には大勢で賑わっていたその場所も、今や動物の声すら聞こえてこない。
ピッチをぐるりと見渡して、客席にも目を光らせて、スネイプは最後に選手控え室へと向かう。ノックもせずに扉を開き、ようやく見つけた姿に安堵と呆れの混ざった息を吐いた。
「寮へ戻る時間は過ぎているぞ、ミス・エバンズ。ご学友が我輩まで巻き込んで君を心配している」
「もうそんな時間……。気付きませんでした」
奥に設置されたベンチから聞こえる震えた声に、スネイプはランタンを入り口へ置き、自らは奥へと進む。
「ごめんなさい、先生。優勝杯は逃しました」
「君自身が悔しいだけだろう。誰彼構わず謝ったところで気は晴れん」
「そう、ですね……」
リリーから二人分の間を空けて、スネイプはベンチの端に腰かけた。大きく息を吐き出す彼女から顔を背け、高い位置にある格子窓から夜空を見上げる。
「あれ、おかしいな……さっきまで、涙なんて……」
「5分だ」
スネイプはすすり泣く彼女のクィディッチへの思いを聞いていた。1年前、キャプテンとしてバッジを送るか迷った日を思い出しながら。結局はチェイサーの男子生徒に決めた。彼女はキャプテンを支える立場にあってこそ、本来の力を発揮する。その判断は正しかった。
「先生、5分経ちましたよ」
深呼吸ひとつで気持ちを締めて、リリーが言った。
「ひどい顔だな」
振り向き鼻で嗤うスネイプにリリーは目を見開いて、声をあげて笑った。
「ありがとうございました、先生」
「これも仕事だ」
「泣く時間をくださるお仕事ですか?」
「…………」
スネイプはきゅっと唇を引き、口角を下げる。無言で扉へ向かい始めた彼を追って、リリーもこの部屋へ最後の別れを告げる。
「あぁ、そうだ。寮へ戻る前に、眠り薬をいただけたらと……」
「魔法薬は気楽に飲むものではない。あれだけ泣けば疲れてよく眠れるはずだ」
彼の歩調に合わせ、ランタンが揺れる。リリーはただ、前だけを見て歩いた。離れがたかった控え室も、戻りたくなかった寮も、前で揺れる黒い影と一緒なら、進むことができるような気がした。まるで次を切り開く手伝いをしてくれている。そんな、背中。
「確かに、
今日はよく眠れそうです」
原文 今日はよく眠れそう
Special Thanks
you
(2019.1.23)