ストーカーという自覚はある


ストーカーという自覚はある。

いや、寧ろ仕事熱心だと言ってほしい。かのリータ・スキーターにスクープを許してしまってからというもの、めっきり仕事が減ってしまった。私も何かネタを掴まなければ。誰も注目すらしていないような、衝撃の事実を。

私が目をつけたのは、セブルス・スネイプという男。ホグワーツで数年一緒になったはずだが記憶にはない。それでも彼が死喰い人となっていた事実は間違いなく、例のあの人消滅後のゴタゴタを上手く切り抜けたのも間違いない。魔法省の尋問で彼を弁護したのは、あのダンブルドアなのだ。何か面白いものが転がっているに違いない。私の勘がそう囁いた。


直撃取材は念入りな下調べが済んでから。最近の私はスネイプの尾行が仕事だ。ありとあらゆる魔法道具を使って、彼の行動を監視する。

彼はつまらない男だった。

ハグリッドやダンブルドアは頻繁にホグズミードへ出掛けるというのに、彼と来たら延々学校に籠りきり。外界との接触をふくろう便だけにしているとは気がおかしくなりそうだ。

ネタは何も出ないかもしれない。

そう過っても、かけた時間を思えば簡単に引き下がれない。しかし尾行は徐々に片手間なものとなり、秋の終わる頃には隔週で様子を伺うかどうかくらいになってしまった。


そんなものだから、彼の新たな動きを見つけたのは、奇跡だった。

ハロウィンの夜が終わりに近づいた頃。彼は一人、城を抜けて校門へと現れた。いつもの黒いマントに身を包み、重い金属の扉をコツリと杖で叩く。猫のようなしなやかさで敷地から抜け出ると、バチン。瞬く間に姿をくらましてしまった。

だがそれで毎度撒かれてしまっては記者の名が廃る。懐から取り出した錆びだらけの魔法道具をくるくると回し、強く念じながら私もまた、身体を捻った。

バチン

現れたのは、覚えのある場所だった。イギリス魔法族で知らないものはいないだろう。かの有名な生き残った男の子が生まれた土地。例のあの人が消えた場所。ゴドリックの谷。

スネイプは深夜の閑散とした住宅地を歩き、広場を抜け、教会へと進む。この先に何があるのか。奥へ初めて踏み入れる私でも知っている。途中石像となって並んでいたポッター夫妻の眠る場所だ。

彼は空からの明かりだけを頼りに墓の間を縫って歩いていた。探す素振りも見せない様子は、もう何度も訪れた証。彼は一つの墓前で足を止めると、もぞりと動いた。忽ち周囲が百合で埋まり、風下にいる私の元へ強い香りが漂う。

百合の花。

彼は今日という日に、その名を持つ女性を弔いに来た。

共に眠る彼女の夫と共に、彼らは同学年として過ごしていたはず。一体どんな関係だというのか。ダンブルドアが弁護するに値する何かがあったのだろうか。

彼は杖腕をだらりと下げ、ただ突っ立っていた。手を合わせることもなく、祈りを捧げているのかも分からない。彼の背中は、とても小さく見えた。


「満足か?」


不意に彼が言葉を発した。


「そちらの目的に興味はない。要求は一つだ。我輩を付け回すのは止めろ」


言葉は私へと向けられていた。


「お断りしたら?」

「後悔することになる」


振り返った彼の杖腕がゆっくりと私を指した。その手招かれたように、私は一歩一歩彼へと歩く。


「なら一つだけ、教えてもらえないかしら。リリー・ポッターとのご関係は?」

「答える義理はない。今日見たことは誰にも言うな」

「記事に書くのもダメかしら?いい見出しを考えるから。ね?」


彼の頬は醜く歪み、眉がきゅっと吊り上がった。きっと私はこれから記憶を消されてしまう。

誰にも言えるわけがない。

Special Thanks
you
(2019.1.23)


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