それはアモルテンシアとは真逆の効果を持つ伝説の魔法薬。
それが7シックルだというのだから昨日の私はとてもラッキーだ。詐欺だなんてとんでもない。その証拠に今日のセブルスはリリーをチラリとも見ようとしていない。完全に、興味がないのだ。
「ねぇ、リリー。今日のセブ、変じゃない?」
「そうかな?」
「そうよ!朝から一度も話しかけてこないし、私が挨拶しても気の抜けた風船みたいな音しか返ってこなかった!」
「体調が悪いとか?」
「そんな風には見えないけど……」
夕食の時間も終わりに差し掛かり、疎らになった大広間ではグリフィンドール席からもスリザリン席がよく見える。ちょうどこちらを向いてゼリーを掬うセブルスに、リリーは頭を傾け心底不思議がっていた。
「明日には元通りだよ、大丈夫」
彼のオレンジジュースに仕込んだのはスプーン一杯だけ。もうそろそろ効果が切れたっておかしくない。3秒後、こちらに走ってくる可能性だってある。
「行こう、リリー。魔法史の課題を見てほしいんだ」
「巨人戦争の?厄介な課題よね。私、20センチもオーバーしちゃったの」
リリーがオレンジジュースを飲み干して、隣に置いていた鞄を手に取る。後ろを向いた瞬間の、ふわりと揺れる赤毛が羨ましい。強情な黒のストレートヘアーを指へ巻き付ける。きっかけは私でも、彼女の背を追いかけるのは私の役目。
「待って、リリ――」
「リリー!」
私の声に被さって、男の子が彼女を呼んだ。振り返ったのが同時でも、彼が見るのは彼女だけ。
「今日、ちゃんと挨拶できてなかったから、その……おはようと、こんにちはと、こんばんは」
「あとおやすみもよ、セブ」
「お、おやすみ、リリー。また明日」
はにかむ彼に、リリーがにっこりと笑顔を返していた。私はそれを数歩離れて見てるだけ。
「行きましょう、リリー」
「うん」
手をポケットへ突っ込んで、小瓶を握った。
「……おやすみ、セブルスくん」
「おやすみ」
いつも通りの彼は、いつも通りにおまけの私へ挨拶をした。でも彼がリリーから離れてしまえば、私は更に彼との距離が離れてしまう。今日はそれを実感しただけの1日だった。
こんなものがなくたって、彼は私を見てくれる。……そう、なれたらいいな。
いつかきっと。
Special Thanks
you
(2019.1.22)