あなたの纏う空気は、いつも別離の気配がした。
それも、永遠の。何もない空を指差しハグリッドと話す姿を見たせいかもしれない。禁じられた森には、セストラルという生き物が住んでいるから。
『闇の魔術に対する防衛術どころか校長にまでなって、もう思い残すことはないんじゃないですか?』
歴代の校長が見守るこの部屋で、空気を凍らせ二人が向かい合う。杖を取り出さない理性は残し、スネイプがねっとりと唇を動かした。
『それは宣戦布告かね、エバンズ教授?』
ハグリッドが逃亡した関係で、ただの助手から教授へ引き上げられた彼女への嫌みを忘れずにいる姿はこの部屋の主へと成り上がる前と何ら変わりない。少なくともリリーにはそう見えた。
『もちろん違います、校長』
『賢明だな。用がないなら下がれ。君の相手ばかりはしてられん』
私が彼を信じ損ねて、世界が彼を失って、まだ数時間も経っていない。彼に感じた別離はリリー・ポッターの影だったのか、それとも彼自身の決意か。修復呪文を唱え城中を歩き回りながら、そんなことばかりを考える。
「エバンズ……あー……教授?」
声をかけてきたのは、今や英雄度を限界まで上げたハリー・ポッターだった。破れや汚れの放置された服とは違い、彼の顔には傷ひとつ――額の傷は除くとして――ない。最優先で治療を施されたのだろう。
「好きに呼べばいいよ。ハグリッドが戻れば、ここを辞めるかもしれないし」
「どうして、ですか?」
「色々ありすぎたからね。少しくらいゆっくりしたって、バチは当たらないでしょ。――君もね」
大英雄は苦笑いをして、額の傷を隠すように髪を弄った。
「それで、何か用かな?召集?」
「いえ、あなたにこれを渡しておこうと思って」
彼はポケットに手を突っ込んで、ぐしゃぐしゃになった紙切れを差し出した。そこにあるのは、切り取られたリリー・ポッターの写真。
「これを?」
「あー……大切なのは、たぶん、二枚目で。スネイプ教授が……最期に握りしめたローブの内ポケットにありました」
言い終えると、彼は私へ写真を押し付けて、止める間もなく来た道を戻って行った。遠くから、彼を探す声が聞こえる。
「二枚目……」
彼はそう言っていた。にこやかなリリー・ポッターの写真をずらし、隠れていたもう一枚を顕にさせる。一枚目同様破られていたその写真。そこにいる、彼の
心残りは、私?
Special Thanks
you
(2019.1.21)