いつもの部屋にいつもの三人。
自分たちがアジトと呼ぶ隠された部屋に集まるは、ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン。悪戯仕掛人と名乗る彼らにはもう一人仲間がいるが、そのピーター・ペティグリューは罰則中。逃げ遅れたり、授業で大失敗したり。彼の放課後はしばしば埋まる。
「ちょうどピーターもいないことだし、二人に提案がある」
人差し指を立て頭を寄せたのは、丸眼鏡にボサボサ頭のジェームズ。
「どうしてピーターを省くんだい?」
同じく頭を寄せながら、とび色の髪を揺らしたリーマスが問いかける。
「あいつはリリーに気があるからな」
灰色の瞳がジェームズを捉えて、自分にはお見通しだとシリウスがニヤリと笑った。
「だがリリーはどうしてだか陰気なスニベルスがお気に入り。ならば我々が背中を押してやろうじゃないか!な、友よ!」
「言ったのがジェームズじゃなければ僕は賛成してたよ」
斯くして悪戯仕掛人の計画は始動したのだった。
数日後、ホグズミード日の今日。朝からリリーは運がなかった。寝坊し友人とは現地集合となり、お気に入りのバッグは破れ、スラグホーンには引き止められる。ようやく向かおうかというとき、今度は足元の階段がガチャンと不穏な音を立てた。
グリフィンドール寮の寝室への階段宛らに滑り台へと変化した足場。身体がついていけずにグラリと傾く。
「え、嘘っ」
一歩、二歩、転ぶまいと踏み出した足は下へと進む。三歩、四歩、徐々に速度が上がり、とうとう全速力で駆け出した。
「やだやだやだやだ!」
リリーの絶叫か廊下に木霊する。しかし返ってきたのはピーブズの笑い声。ホグズミード日の今日、ホグワーツ城はもぬけの殻だった。
ぶつかる!
階段の踊り場、階下へ行くには方向を変えなければならない場所。全速力で壁へと突進する覚悟を決めた。僅かな抵抗として重心を後ろへ意識し歩幅を狭めてみたが、勢い付いた身体は止まってくれない。リリーはぎゅっと固く目を閉じた。
ボフッ
激突したのは、柔らかいものだった。その正体を確かめる前に、バタンと扉の閉まる音と共に真っ暗闇がリリーを包む。
「なに、これ……あ、杖落としてる!」
不安を誤魔化そうと独り言が大きくなる。明かりを求めまさぐったポケットに、頼りになる相棒はいなかった。両手を広げ、恐る恐る部屋の様子を確かめてみる。ペタリ、ペタリ。どうやらここは大して広くない。直角の角が四つ。その間は五歩くらい。
「でも出口がない……」
途方にくれ、ため息をついた。人為的と言わざるを得ないこの状況。誰かの怒りを買ったとでも言うのだろうか。じわりと目頭が熱くなり、鼻を啜った。
――そのとき。
バタン、と突如壁が割れ、明かりが差した。だがそれも束の間。一人の人間を放り込み、またバタンと閉まる。私と同様、勢い付いた彼の足は止まれない。進行方向上にいた私に躓き、彼の身体が直撃した。ゴチン、と身体に響いた鈍い音は、額同士の当たった骨の音。
「スネイプくん!?」
「エバンズか……」
額の痛さはお互い様。全身で彼を受け止めることになってしまった私へ「悪い」とだけ言って、彼は身体を起こそうと身を捩る。
「ポッターたちの仕業に違いない。何故君が巻き込まれたのかは知らないが……クソ、リリーとの約束が……」
至近距離で舌打ちが聞こえた。
「残念だったね」
「すぐにでもここを出てやる」
そう意気込んで、彼の身体がふわりと浮いた。どこか名残惜しさも感じながら、見えない彼へと思いを馳せる。布擦れが部屋へ響き、彼が再び手を付いた。
「――っ!?」
それは、私の胸の上だった。発展途上だと思いたい、それでも多少はある膨らみ。どちらとも判断のつかない息を呑む音が耳を掠める。
「わ、悪い!わざとじゃ、ない!」
「う、うん!分かってる!仕方ないよ、見えないんだもんね!」
「と、とにかく、エバンズは下がっていてくれ。僕が何とかする!」
今度こそ本当に、彼の遠ざかる気配がする。
「スネイプくん、杖は?」
「……奪われた。だが杖だけがすべてじゃない。何か方法はあるはずだ、必ず」
「無理しないでね。ジェームズたちの悪戯なら、そのうち出してくれるだろうし」
朝から嫌なこと続きだけど、今のこの時間はその真逆なのだし。ホグズミードへ行けなくったって、私は構わないから。
「そんなものを待つ気はない。……ここから出たら、君はポッターたちを殴るくらいの権利はある」
「ふふ、そうかな?」
「そうだ。僕も加勢する」
ここが真っ暗闇で良かった。今の私の顔は誰にも見られたくない。きっと耳まで赤いに違いない。二人きりのこの場所で、乗った彼の重みや触れられた場所を何度も思い出してしまうせい。
あぁ、もう、ここから無事に出たとして、
明日からどんな顔で会えばいいの……。
Special Thanks
you
(2019.1.20)