『拝啓、愛する君へ
マクゴナガルから、君が結婚したと聞いた。相手は私のような家柄に取り柄のない者だそうだな。家族を説得するのは骨が折れただろう。しかし頑固な君のことだから、貫き通せた。よく頑張ったな。
君が離れていってから、私は「何も知らない」わけではなかったのだと気付いた。
朝の大広間で君が破り捨てた手紙は縁談の話だったのだろう。一度だけした喧嘩で君が怒って出ていった翌日、私の授業を欠席したのは泣き腫らした目を誤魔化すため。持ち込む茶菓子はいつも甘さが控えめだった。私のためだと勘違いしていたが、君は友人といるときも同じ菓子を摘まんでいた。着飾るのは苦手で、しかし祖母から貰ったという指輪は調合の時も外さなかった。控えめなブルーが君の瞳によく似合っていた。あれは今も着けているか?
どうやら君に近付きすぎて、見えていなかっただけらしい。今になっても、ふとした瞬間に君を知る。
しかしその思い出に浸るのは私だけ。君から我々の時間を消し去ったのは他でもない私自身だというのに。
私は後悔ばかりを繰り返す。
君を離さなければと。
結婚、おめ―― 』
書き終えずに羊皮紙をグシャリと丸めた。投げ捨てれば、放物線を描いて暖炉の中へと吸い込まれる。あちらこちらから火が移り、あっという間に燃え尽きてしまった。復元することはもう叶わない。
「私なしの君の世界に、どうか
幸あらんことを」
原文 拝啓、愛するあなたへ
Special Thanks
you
(2018.11.14)