『私の好きな所を5つ上げよ!』
浮かれた雑誌の特集でそんな記事を見てしまったがために、私はセブルスが帰宅して早々そう声を張り上げた。
私の想像では馬鹿にされて流されるのがオチだった。くだらないと一蹴されて終わり。でも、現実は違う。彼はソファへ座り込み、顎に手を当て長考し始めた。私がどう話しかけても「少し待て」と返ってくるだけ。その「少し」の間に夕食の準備が出来てしまった。
「もういいですから。早く夕食にしましょうよ」
「もう少しだけ」
その声がとても真剣なものだから、強く出れなくなってしまう。悪戯でやってるんじゃないか、と考えてしまった自分が恥ずかしい。こうなればとことん付き合うことにしよう。そもそもの発端は私なのだ。
セブルスのそばにある肘掛け椅子へ腰を据え、膝を抱えた。ゆったり前後に揺れながら、ぼんやりと彼のことを考える。
もし私が聞かれていたら、何と答えるだろう?
私はセブルスの黒く鋭い瞳が好きだ。鉤鼻が好きだ。薄い唇が好きだ。照れたときの嫌みや皮肉も、一瞬言葉に詰まる間も、逸らす視線も、呆れた笑みも、優しい笑みも。低い声、細い指、頭を小突く加減した手。それから――
「もういい」
とうとう彼の答えが出た。そう思って彼へと顔を向けた。しかし目が合ったのはこちらを睨むように目を細める彼。更にはその頬が赤く染まっていたのだから、私は首を傾げて理由を問うた。
「思ったことをすぐ口に出すやつだとは知っていたが、口から出ていることにも気付かんとは嘆かわしい」
「――っ!?」
思わず手で口を覆ったけれど、今更遅い。彼はまだほんのりと赤い頬をそのままにして、私をじっと見つめていた。
「待てと言われて馬鹿正直に待ち続けるところや、考えていることが口から出ていることにも気付かない鈍さ、そしてその間抜け面……他にも多々ある。君の間抜けさは5つでは足りん」
「私は間抜けなところなんて聞いてませんよ!」
私の抗議を鼻で嗤った彼が立ち上がる。グッと伸びをして一歩踏み出した彼へ首を傾げた。
「どこへ?」
台所へと続く扉に手をかけて、振り向いた彼が呆れたため息をつく。
「早く夕食にしたいと言ったのはリリーだろう」
ま、ぬ、け、と彼の薄い唇が動いた。
聞くんじゃなかった!
原文 聞くんじゃなかった……
Special Thanks
you
(2019.1.17)