君たちは私のために泣く。
私の未来を憂いて、自分の無力さに失望して、時には疎い私へ己の要求を知らせようとして。
「セブルス、可愛い私たちのベイビーが呼んでますよ」
「あぁ、分かっている」
いそいそと立ち上がりセブルスが隣室へと消えた。それを見つめるリリーは慈愛に満ちた表情で、ソファにゆったりと背を付けたまま彼を見送る。再び彼が戻ったとき、その腕に抱かれていたのは、まだ生まれて間もない赤ん坊。
ぎこちなくあやしながら恐々と抱いているセブルスを、リリーが手招きする。連れてきたはいいものの依然泣き止む様子のない赤ん坊に、彼の眉間は限界まで狭まっていた。
「私たちが不安がるとベイビーも不安になっちゃうんだってトンクスが言ってましたよ。ですからもっと自信を持ってください、パパ」
自身の隣をトントンと叩き座るように促して、リリーがからかい混じりにニヤリと笑う。
「君の親になった覚えはない」
なるべく赤ん坊に衝撃がいかないよう気を使う彼の動作は不安げで、それでもほんのりと血色を良くした耳が黒髪から覗いていた。その愛しい姿を晒してやろうと、リリーが彼の前髪を掻き上げる。
「愛娘を抱いているのにまだそんな怖い顔してるんですか?」
「元々こういう顔だ」
ムッ、と口角を下げる彼の眉間は深く寄ったまま。ツンと突かれても解けはしなかった。
「私よりこの子だ。泣く理由が分からん」
「あなたが笑えば笑うかも」
セブルスにはリリーが冗談で言ったことくらい分かっていた。笑顔を苦手にしていることを、彼女は知っている。彼にとって作る必要のなかった表情。浮かべる機会を失っていた笑顔。
今は――。
この時を感じていれば、自然と零れる。ふっとサイレンのような泣き声が途絶えた。こちらに伸びてくる小さな小さな手のひらに、そっと無骨な指を触れさせた。握られるその柔らかな感触を忘れることなどできない。
私は君たちのために笑う。
原文 君は私のために泣く
原文 私は君のために笑う
Special Thanks
you
(2019.1.13)