雑踏の中を歩く


雑踏の中を歩く。

見慣れないマグルの街で一人きり。人波に逆らうように進むリリーへ周囲の視線が突き刺さっていた。それは彼女の足取りを着実に重くさせていく。服も、振る舞いも、この場所に溶け込んでいるはずなのに。

とうとう止まった足取りに、今度は涙が零れた。


「あの、大丈夫ですか?」


心配そうに声をかけてきたのは人の良さそうな女性だった。ハンカチを差し出す彼女にリリーは首を左右に振って申し出のすべてに拒否を示す。


「でもあなた具合が――」


グラリと傾いたリリーの身体。受け止めたのは、スネイプだった。


「見つけた」


スネイプはリリーを立たせてやると、自身の上着を彼女へ羽織らせる。再び支えながら優しく擦るその腕に、彼女の力がほんの少しだけ抜けた。


「どうも、マダム。彼女は私の連れです。ご心配なく」


スネイプは不安げに事のなり行きを見ていた女性へ声をかける。嫌がる素振りのないリリーに安心し、彼女はその場を立ち去った。


「我々も移動するぞ。そこの路地で姿くらましをする」




二人は慣れ親しんだスピナーズ・エンドへと現れた。スネイプは玄関を開けてすぐのリビングへリリーを通し、一人掛のソファへ座らせる。


「何か飲むか?」


リリーが左右に首を振る。


「ごめんなさい……」

「君に非はない。私こそ手を離して悪かった」


スネイプはリリーの足元へ膝を付け、彼女の両手を握った。冷えきったその手を温めるように息を吹き掛け、摩擦を起こす。大して大きくもない自身の手で覆い隠せてしまう彼女の手に、彼はその薄い唇で口付ける。


「もう、マグルがいても平気だと思ってた。でもそれは、ずっとあなたがそばにいてくれたからだわ、セブルス」


ぎゅっと彼女が手に力を込める。すがるようなその仕草。スネイプには彼女の落胆や申し訳なさも見えていた。


「無理をする必要はない。私はいつもリリーのそばにいる。もう決して、この手を離さない」

「そんな、私、あなたがいないとダメになってしまう」

「私としては、歓迎だ」


ふっと笑ってみせるスネイプに、リリーも僅かに口角を上げた。

掴まり立ちを始めた子供のように、私にはまだこの手が必要。でもいつか、私が支える側になれたなら。あなたを抱えるだけの力が私にも。

それまでは、

さまよった私を見つけるのはいつも貴方。

Special Thanks
you
(2019.1.12)


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