この敷地内では魔法を使うことが一切できません


「この敷地内では魔法を使うことが一切できません」


ホグワーツ城から競技場ほど離れた校庭。グリフィンドールとスリザリンの上級生を引き連れて、一人の教師が足を止めた。両手を広げ彼らを振り返り、柵の中へ入るように手招いてみせる。

ざわざわとどよめく彼らを代表し、最前列の緑を纏う生徒が声を上げた。


「そんな、じゃあ僕らは一体これから何を?マグル式の草むしりでもしろと仰るんですか?」


馬鹿にした笑いが生徒の半数から起きた。しかしリリーは大きく二度頷いて、にっこりと笑顔を浮かばせる。


「いい質問ね。――いいですか、みなさん。この授業は『闇の魔術』に対する『防衛術』ですが、害を与えようとする人間が分かりやすく魔法を仕掛けてくれるとは限りません。また、杖を取られて終わりではあまりにも脆い」


集団の後方で、一人の女子生徒が杖を取り出した。授業外にも何度も唱えたことのある簡単な浮遊呪文。しかし手のひらに乗せた小石はピクリとも動かなかった。


「さて、他に私の作ったこの場に打ち勝つ自信のある人はいませんか?この敷地内で魔法を使うことができたなら、今後私の授業は免除します。もちろん成績の保証もしましょう」


何人かが意気込み杖を振ってはみたが、誰一人敵うものはいなかった。それぞれに首を横に振りため息をつく彼らを見て、リリーは笑みをにんまりと教師らしからぬ満足げなものへと変える。


「よろしい。今から教えるのは、拳への体重の乗せ方、足払いのコツ、急所の位置など実際に使えるあらゆること。では本日の助手を紹介します。――スネイプ教授!」


ここへ来る道中からチラチラと向いていた視線が、ようやく正式な許可が出たかのように黒衣の男へ集まった。割れた生徒の群れの中心を悠々と歩く彼に僅かばかりの拍手が起こる。


「まずはスネイプ教授と私でデモンストレーションを行います。これは格闘技ではないので反則は存在しない。構いませんね、教授?」

「無論」


リリーから数メートルの距離を取り、スネイプが立ち止まる。ザッと音を立て、生徒の群れが後退した。


「スネイプ教授に格闘術の覚えはないそうですが、私のような女一人押さえ込むことなど容易いとお考えです。数分後にはそれが如何にくだらないことか、身をもってお知りになるでしょう」


どこからか称賛の口笛が届いた。


「過信は危険でしょうな?お互いに」

「そうですね」


リリーが拳を握り構えを取る。スネイプも見様身真似で腕を上げた。開始の合図は存在しない。


「セブルス」


彼にだけ聞こえる声でリリーが囁いた。


「あなたが私を組敷けるのは、ベッドの上だけよ」

「――なっ!」


スネイプの目が動揺に見開かれる。その一瞬でリリーは一気に距離を詰めた。


「さぁ、あなたの素敵な姿を

見せてもらおうじゃない」

原文 見せてもらおうじゃないか
Special Thanks
you
(2019.1.12)


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